別の話

ああるろろ

リレーという競技が不可解な昨今ですが・・・。 ――― デパートの入り口のそばの階段から地下一階へ降りました。食料品売り場です。そこをカゴも持たずに、売り場を縫うように、縦横無尽というのでしょうか、私はひたすらに歩きました。できる限り速く歩きまし…

納得興ざめ

「こんな歌があったよなあ。あなたはもう忘れたかしらー、赤い手ぬぐいマフラーにしてー、冷たいねっていったのよー」 「ありましたねー、歌詞飛んでますけど」 「若かったーあの頃ー、何も怖くなかったー、ただあなたの優しさが怖かった・・・ってこれおか…

うずまき女

昔うずまき女というのがいてな。そりゃあ、うずまいておったよ。どれだけうずまいておったかというと、そりゃあもうすごいもんやったぞ。とにかくぐるぐると、うずをまいておったわ。「うずまき」て言うくらいやからな。 何、全然イメージが湧かない? いや…

ニュース 樹木希林バラエティに挑戦

女優の樹木希林(62)を司会に迎えたコント・バラエティが12月からはじまることがわかった。1日にTBSで開かれた記者会見によると、番組のタイトルは樹木希林が出演していた往年のドラマ『時間ですよ』にかけ、『義眼ですよ』にする予定、とのこと。

どこまでも用心深く

目を覚ました途端、体の痛みを思い出した。全身、痣や擦り傷やだらけだ。筋肉痛も酷い。あれだけ動いたのだから、当然だ。しばらく休んだ方がいいだろう。どうせ動いたって、すぐに出られる訳じゃない。なんたってここは井戸の底だ。 目の前には死体が転がっ…

居残り作文

「一行目を誰かのセリフにすると良いですよ」 白紙の原稿用紙を前にして唸っていた僕に、加藤先生が声をかけた。 「何を書こうとしているの?」 顔をあげた僕に尋ねる先生。しっかり目と目が合ってから、それから一拍置いてから尋ねてくれた。優しい声だ。そ…

綿子

「あんたのためや」 それが綿子の口癖やった。 ワシと綿子は18の時に夫婦になった。みんな反対しよった。分かりきったことやった。ワシはちょっとええとこの子で、綿子はそうじゃなかった。この辺は、あまり詳しくは話したくない。家族とはもう縁も切ったし…

怪物太郎

怪物太郎というあだ名の男がいた。そいつは6歳の時、すれ違ったレスラーに因縁をつけ、そのレスラーのみならず、取り巻きの十数人すべてを病院送りにした。そしてその全員が、両腕両足を折られていたという。 という嘘のような話を村田から聞かされた。夏の…

こどもの反逆

子供の頃、ニュース番組を見る大人が不可解だった。なぜそんなつまらないもの見るんだろう? 茶の間。大人は毎日ニュース番組を見る。もしかしたら面白いのかもしれない、そう思って、手元の漫画からブラウン管へ視線を移すことは幾度もあった。だがそれはい…

ブログをつけてわかったこと

ぼくは自分が書いた文章を読むのが好きだ。特に好きなのは可笑しなもので、今のところ、プロフィールが一番好きだ。あまり好きでないのは、笑えないもの。特に、可笑しなものに挟まれた笑えないもの。つまり、空気を読んでいない笑えないもの。 そういうもの…

第二章「おれの考え」

前回第一章「わたしの考え」 ――― 俺も考えてみたよ。 前の人の読んでみたけど、なんだかなぁ、双子で入れ替え?ありえないでしょ。普通ばれるって。ミステリィの読みすぎ。それとも山本文緒の『ブルーもしくはブルー』を読んだ直後だったとか?あれって結末…

第一章「わたしの考え」

前回プロローグ「ぼくの選択」 ――― 私なりに「ある計画」が何なのか考えてみたわ。まずこの計画の目的を考えることからはじめてみた。つまり「彼女が何をしようとしているのか」それを仮定することからはじめてみたってワケ。「妊娠した」っていう嘘をついた…

ぼくの選択

プロローグとうとう彼女と結婚してしまった。ぼくが無精子だってことは、まだ伝えてない。彼女は、いや妻は子供を欲しがっている。彼女が求めれば、ぼくは期待に応えて、その・・・「子作り」ってやつに励んでいる。さいきんは毎日だ。子供なんてできるわけ…

似てる

「大塚愛と矢井田瞳の区別がつかないんですが」 「aikoはどうですか?」 「微妙ですね。関西弁ではあるんですけど。トークはサバサバというのもカブリますね。やっぱり似てるかも」 「美人じゃないのに恋愛体質的な歌を歌ってるっていう共通点もあるんじゃな…

夢占い

ぼく:「ぼくがなぜかタレントで、綾瀬はるかと一緒に就職活動をするっていう変な仕事をするんです。それがきっかけで2人が、って自分たちのことなんですけど、親密になっちゃって、そのうち一緒に遊んだりするようになるんですね。でもついにパパラッチにや…

「遭遇、スズメバチ」

昼休みに中畑君と外食に出かけた。帰り道、中畑君が急に立ち止まり叫んだ。 「わっ、スズメバチだ!」 「わぁっ!・・・バカだな。これはスズメバチじゃない」 ハチは地面でじっとしていた。寝ているのかもしれない。 「本当ですか?スズメバチに見えますよ…

仮想、社会人

今日は憂うつなことがあったので、気晴らしに中畑君に愚痴ることにした。独り言でもしていれば、いつものように食いついてくるだろう。 ――― 「あの時『ははは。そんなわけないだろう』と言われたが、ひょっとしたら、ぼくはリストラされるんじゃないだろうか…

15歳の日記

思春期には純粋性を求めがちで、それに縛られて身動きがとれなくなる人が発生する。その人は、 「ぼくは、「彼女いる?」と聞かれて「いる」と答える時に優越感を感じたくない」 と言った。それは、 「彼女と付き合っているのは彼女を愛しているからであって…

12歳の日記

宇宙って一体どうなってるわけ?最近そのことばかり考えている。考えたって答えが見つかるわけじゃないけど、考えずにはいられない。前、お父さんに聞いてみたけど、お父さんもよく分からない感じだった。ただ、「皆そういうことを一度は考えるもんだ」と言…

太郎

たとえば、ある6歳の少年が蝶々をつかまえたとするよ。そして少年、次は、おもむろに両の手を使って、たった今捕まえたそれをぎゅっとにぎりつぶしたとするよ。そしたら一体どうなっちゃうの!?って想像してみるとさ、蝶々は潰れているはずだよね、よっぽど…

あるガン患者とその友人

「ぼくはガンなんだ」 「えっ、本当?」 「うん。だって医者に『ははは、ただの胃潰瘍ですよ』って言われたんだ。だからぼくはガンなんだ」 「ふぅん。でも医者は胃潰瘍だって言ってるんでしょ?」 「いや、胃潰瘍じゃなくて『ただの胃潰瘍』って言われたん…

自分はいつも殺されたいと思っている。 ひとしれず殺される。何の必然性もなく。たとえばこの角を曲がった所で、あるいは曲がる直前に、ばっと誰かが出てきて、すばっと、大きな刃物で僕を袈裟斬りに斬り捨ててくれないかなと期待する。中途半端に苦しむのは…

横田さん

図書館へ行くと、いつも横田さんがいた。僕が高校生の時の話である。 「私、群れるのは嫌なの」 これが彼女の決め台詞。時にソファーを陣取るフリョウ達を睨みながら、僕に言う。僕だけに言う。 「私、群れるのはちょっとね」 時に、横田さんを慕って来る数…

たとえば、クラス(小中学校と思ってもらっていい)で決め事をするときに、おおむねそれでいいだろうと言うことで特に話し合いをしないまますぐに決まってしまいそうな時があると、僕はいつも「ちょっとまった」をかけていた。まだ本当にそれでいいのか納得…

「くるいたいよう」

黒い太陽ではない。狂いたい、と切望しているのだ。 僕がその声を聞いたのは、ある狭い居酒屋で一人で飲んでいる時だった。「一人で」という説明が、一文が長くなるという読みにくさを押してでも即座に挿入されるのは、ただ「一人で飲んでいる」ということに…

午前11時。研究室でのことである。 数十分、キーを叩く音とマウスをクリックする音しかしなかった空間で、その数十分の平均から外れた大きな音が発生した。つまり、ミドリ君がこう発言した。 「斎藤君に彼女ができたそうです」 この空間にはミドリ君を除くと…

大学

午前10時。集中講義のために早めに登校すると、事務の前で磯貝君を見かけた。 「磯貝君。久しぶり」 僕は彼に近づいて挨拶した。すると磯貝君はこっちを向いて、 「おー!ミドリ君の彼氏だっけ?久しぶり」 と、僕がまるでとんでもなく遠くにいるみたいな声…

そろそろ夏休みが終わるので実家から帰らなくてはならない。と、帰らなくてはいけない時期になってはじめて、実家の滞在時間が長いすぎることに気が付いた。20日も実家にいたのだ。毎年4日とか長くて1習慣もしたら帰ってくるのに今回は20日だ。なんでだろう…

モリスエ

僕は、僕の方を向いているけど僕の目は見ていない、よく喋る女の人を、見つめていた。 「私はね、東大に入学したらすぐにスカウトされたの。それから毎日、こうなの。大学にはほとんど行ってないわ。すぐにやめたもの。用意された服を着て言われたポーズをと…

2004年夏

実家に帰ったことを書こう。 研究室の作業がかなり片付いたので、つまり、やることがなくなったので、実家に帰ることにしたのだ。「片付いた」というのは、その作業の期限をみこしてのことなので、まだやろうと思えば続けられる作業ではある。しかしまだ期限…