納得興ざめ

「こんな歌があったよなあ。あなたはもう忘れたかしらー、赤い手ぬぐいマフラーにしてー、冷たいねっていったのよー」
「ありましたねー、歌詞飛んでますけど」
「若かったーあの頃ー、何も怖くなかったー、ただあなたの優しさが怖かった・・・ってこれおかしいやろ!」
「うわびっくりしたー・・・何ですかいきなり」
「『何も怖くなかった』って言うといて、『あなたの優しさが怖かった』て・・・どう考えてもオカシイやん」
「まぁたしかにおかしいと言えばおかしいですけどね。はぁたしかにおかしいですよ。でもそんなこと言われてもなぁ。ぼくの歌じゃないしなぁ」
「別に君に責任まで取らせようという気はないねん。共感が欲しいのな、共感が」
「でも、そこまでおかしいですかね。『何も怖くなかった』と言っておいて『あなたの優しさが怖かった』と言うのは、論理的なおかしさしかないですよ。あれは、『あなたの優しさが怖かった』ということを強調したいんであってですね、つまり表現としては、ふつうです」
「論理を言うてんねん論理を。こういうのはな、論理的に責めなアカンで。ええとな、君は、仮にワシが、『満腹やー』と言っておいて『ただ、チャーハン大盛りなら食いたい』ってゆったらどう思うねん?」
「どうも思いませんけど。食べたらいいんじゃないんですか」
「そこが!そこがおかしいがな!・・・じゃあな、仮にワシが『満腹やー』と言っておいて、『しかし、今からラーメン大盛りを食いたい』と言ったら君は・・・どうせ、食べたらええと思うんやろ。薄情やな」
「ていうかなんで満腹前提なんですか。そういうことを言いたいならですね、『その村には誰もいなかった』『しかし、一人の少年がいた』といった例をだしたらどうですか」
「いやいやいや、それおかしいか!? はじめは村に誰もいないと思っていたけど、しばらくしたら少年を発見した、という解釈ができるやろ?」
「誰もいなかったと思った時と、少年を発見した『時間』が違うわけですね。でもそしたらあの歌だって、その理屈で肯定できますね」
「ほんまか?」
「つまりあれは過去を思い出している歌な訳ですから、まず先に『あの頃は何も怖くなかった』というのが思い出されて、次に『しかし、ただ、あなたの優しさが怖かった』というのを思い出した、という解釈ができるでしょう」
「ああそうやなー。そう考えたら、おかしなくなってきたわ・・・。なんや、急に熱が冷めたいうか、つまらなく・・・」
「興ざめですね」
「それやそれや。興ざめやー」


ぽっくり。