2006-08-01から1ヶ月間の記事一覧

心をもたぬもの

もう虫(こばえ)が大変なことになっているのである。 水気のある生ゴミ(たいていの生ゴミは水気がある)を放置しただけで、数時間もしないうちにたかられる。言葉は悪いが、まるで、死体をあさるハイエナだ。いや、こちらは迷惑をかけられているのだ。いく…

私の夏

私の世界は常に暗い。昼間も夜も無い。いつでも、どこへ行っても、ただ暗い。 裏表が無いコインのように退屈な、上下の無いだまし絵のように当惑させられる、じれったくて、どこを探っても、どこにも手の届かない世界。 私は闇に生きている。 いつからか、闇…

哀しい夕方

体は痩せ細って、骨格が不自然に曲がっている。目は閉じられ、一見死んでいるように見える。だが、注意深く観察すると、胸がほんの僅かに上下していた。 この猫はあまりに弱りすぎている。手の施しようは無い。ならば、もっと良い場所で死なせてやろう。この…

偽装工作

一度体験したことは忘れられない。どんなに嫌なことでも、どんなに楽しいことでも、「体験した」という事実が確実なものとして刻まれる。 しかし人は、恐ろしいほど大量の事実を抱え込んで、生きていられる。 嫌なことは嫌なことなりに、楽しいことは楽しい…

ぼくの友達

今日もとても暑い。きっと、夏休みの間じゅうずっとこうなのだ。だから、暑いという理由で外に出なければ、この休みを無駄に過ごすことになる。暑くても外で遊ばなくては。家族も、そう言っている。 だいいち、もう家の中で遊ぶのには飽きた。一人は退屈だ。…

とても借りられません

初めてというものは何かと緊張するものだ。 何も、初めて就職する時や、初めて大統領になるときのような重大な時ばかりがそうではない。初めて地下鉄に乗る時だって、同じように「初めての緊張」があるものだ。 今日は、初めて部署を移動する日。 いままで店…

不便な生き物

無駄な時間が許せない。たしかに暇ではあるけれど、何かをするには短い時間。ただ待つしかない時間。そんな時間は、そっと見過ごしてやるしかない。 もしくは、そっとすくってやるか。 洗濯機を回している間、何をすれば良いだろうか。いっそ決めてしまおう…

うそ臭い実話

「ガコーン!」 石を投げたのだ。少年が。トリック・アートなる作品のその反射板に。 しかし、その時作品の周りにいた人たちは、それを一瞥しただけでまた元の美術鑑賞に戻った。仕事、あるいはボランティアで来ている若い(おそらくぼくよりもいくつか若い…

あるだけまし

休憩室で食べる昼食というのは、どうもいけない。食べるものが味気ないとか、素っ気無いとか、そういう問題かなと思ったこともあるが、それだけでは説明がつかない。同じものを家で食べても、ずっとおいしいのだ。 休憩中に職場を離れるのは、本当は禁止され…

第1夜

「歩きタバコはやめたまえ」 と言ってその人は、ついさっき道端でもらった飲料メーカの販促品である小型のうちわを、彼に向けてひらひらさせてみた。 しかし、歩きタバコの彼は、その人に一瞥をくれただけでそこを通り過ぎてしまった。 「また声が小さかった…

みこし込み

ぼくの働いている会社では、企業イメージアップのため、清掃活動や街のイベントに狩り出されることがある。先日は本社のある街のお祭りに参加し、みこしを担いできた。 夕方からはじまり日が暮れてからもしばらく、2時間くらい担いだだろうか。その間、何度…

なりたい自分

ぼくは過去の総括ができない。たまに試みてみるけれど、うまくいかない。明らかに、まとめたくない、という意図がある。まだ考える価値があると思っているのだ。 高校三年生18歳の頃、ぼくは何を考えていただろうか?進路のことなど考えていなかったと思う。…

成長とは

小学校の頃の美術の先生が、「寝る前の数時間に何かが生まれるんだ」と言っていたのが忘れられない。この先生は40くらいの女の先生で、漫画を描いていた。今思うと、いわゆる同人誌だと思う。 一日が終わった後の頭の中は、スパークしている。たくさんの言葉…

マイルール

ぼくは嫌いな作家が幾人かいる。例えば、村上龍が嫌いだ。嫌いだが、興味が無いという意味での「嫌い」だ。つまり、もう彼の著作から学ことは無いと思っているという意味での「嫌い」だ。 積極的に嫌いなのは、吉本ばななとか、田口ランディだ。本当に大嫌い…

千年生きた男

子供の頃、考えること(空想)の一つに、『千年生きた男』というのがあった。内容は、もし千年も生きている男がいたとしたら、その男はどんなことをしてどんなことを考えているのだろうか、というものである。 千年生きた男は、何をしても目新しくなく、新し…

タダの話

明日は土用のうなぎの日だ。うなぎと言えば面白い昔話がある。 昔々あるところにうなぎ屋から漂ってくる香ばしい香りをおかずに白飯を食べている想像力ゆたか君がいたのだが、ある日、ゆたか君の家にうなぎ屋の店主が尋ねてきた。 「あなた、ウチの店から出…

猫愛

ある程度言葉に敏感な人が、「愛」などという言葉を違和感なく使える対象は、限られてくる。 ぼくは猫を愛している。 こう言ったとき浮かぶ猫は、猫全体だ。つまり全ての猫だ。自分が飼っている猫のことではない。この飼い猫のことにになってくると、愛とい…