うずまき女

昔うずまき女というのがいてな。そりゃあ、うずまいておったよ。どれだけうずまいておったかというと、そりゃあもうすごいもんやったぞ。とにかくぐるぐると、うずをまいておったわ。「うずまき」て言うくらいやからな。
何、全然イメージが湧かない? いやな、今ワシも、思い出して驚いているところなんや。思い出し笑いならぬ思い出し驚きいうてな。もう少し驚いてもいいか?
いやなぁ本当に、ぐるぐると・・・もうええわ。そうなー、絵に描くとこんな感じやったよ。我ながらうまいな。


もう普通に往来を、歩いておったよ、こんな出で立ちで。あるいは転がっていたといった方が良いのかもしれんが、中はみえんでな。走っていたのか滑っていたのか、それとも泳いでいたのかよくわからんが、とにかくこうやってな、うずまき全体でもって、往来を闊歩しておったのよ、恥じることもなくな。
ぴんと胸を張って・・・というのはイメージやが、そんな感じやった。中はみえんでな。なので、あるいは恥じておった可能性も、無きにしも非ず、やが。まぁ、心の中は誰にもわからんでな。顔で笑って、心で泣いとったという話もあるし。
しかし、上品な方やったよ。何度か口をきいたが、武家かな。武家の娘かな。そんなところやろ。中は見えんけど。



話は一転するけどな、いや、せえへんけどな、いや、ちょっとだけするねんけどな、このうずまき娘がな、いつものように往来を胸張って・・・かどうはかわからんけど、歩いて・・・かどうかはわからんけど、とにかく移動しておったときの話や。うずまき娘の前からお侍さんが来はったんや。すれ違う形やな。
そりゃー長い刀差したお侍さんでな。いや、一本だけしか差してなかったから、ただの浪人やったのかもしれんけど、それにしては立派な出で立ちやったからな、たぶんお侍さんなんや。そのお侍さんがうずまき娘とすれ違う時、ちょっとしたアクシデントが起こってな。


事件やがな。
刀差す向き考えたら分かると思うけど、普通、道言うたら左側歩くもんやろ。うずまき娘は右側を歩く癖があってな。いつかやるやる言うてたんやけど、とうとうやってもうたー、という感じやった。
ところが、「やってもうたー」と思ったんやけど、そのお侍さんがえらい心の広い人でな。逆に「大丈夫ですか?」とか抜かしやがるねん。つまりな、刀抜かずにそんなこと、抜かしやがるねん。君、反応が今ひとつやな。
それでな、うずまき娘は斬られることもなくな、安心やったんやけど、お侍さんは別の物を盗んでいったんや。それは何やと思う?それはな、「あなたの心です」。
君ほんまに今ひとつやな。まぁええわ。
つまり惚れてしまいよったんやな。うずまき娘は。お侍さんに。



そしたらえらいことが起こってな・・・。いよいよクライマックスやで。まばたき禁止や。




こないなってしもうたんや・・・。文字通り恋に火がついたんやな。
なんてうまいこと言ってる場合ちゃうで!水ー水ー!て大騒ぎしてな、皆で火を消そうとした時、中からうずまき娘の声が聞こえてきたんや。


「消さんといて!ウチの恋の火を消さんといて!」


言うからな、消さんかった。そしたら大きな火だるまになってなぁ。
その頃まだ冬やったからな。皆集まってきてな、スルメとか餅焼く奴もいてな。酒も飲んでな。楽しかったで。どんどん焼きや。

2時間ほど燃えたかな。その間、酒のつまみはスルメと餅と、あとは、うずが燃え尽きたら中からどんな女が出てくるんやろう、ちゅう話やったな。別にふざけとるわけやないで、ふざけてないわけでもないけどな、中から断続的に、うずまき女の声が聞こえてくるねん。ほんまにほんまに。
そしてな、うずまき女はな、しっかり生きて出てきたで。
もううずまき女じゃなくなってたけどな。ちりちり女になっとった。



フラフラした足取りでな、お侍さんの去った方角へ、歩いていったで。それから二度と、うずまき女改め、ちりちり女の姿は見んかったな。


だがしばらくして、あのお侍さんが妖怪を斬った、ていう噂を知ったんや。
結局うずまき娘は、あの長い刀に、斬られてしまいよったんやな。ま、噂やけどな。