2007-01-01から1ヶ月間の記事一覧

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逃げる事はできたかも知れない。叫びながら外へ出れば、近くの人間が異常を感じて様子を見にくるだろう。板倉はワンルームの真ん中に居た。すぐに刺される距離ではない。それでも千賀子は、黙って板倉の言うとおりにした。 それは、ナイフを見たことによって…

ヤモメ3

トモイヤ公園に入ると、広場の端に板倉がいた。千賀子とヤモメからは100メートル以上離れているが、ヤモメはそれを一目で板倉だと確信した。 「話してくる」千賀子は言う。 「何を」間を置かずにヤモメが尋ねる。ヤモメは、千賀子がそう言うと思っていた。 …

2.1

千賀子の家に上がると、地べたには習字の道具が置いてあった。 「今からはじめようと思ってたところなんだ」千賀子は言う。 「まだやってたのか」ヤモメは素直に感心した。 「まだって、やるのは時々だよ」千賀子が半紙の前に正座する。「今日は書初めだ」 …

2.2

―――もう100枚くらい書いただろうか。30くらいまで数えていたが、数えてどうなるわけでもない。会心の一枚が書ければ、それで良いのだ。だがヤモメには、なかなかその会心が来なかった。 「俺は家を出る時、もっと遠くへいくと思っていた。いや、まず千賀子を…

ヤモメ2

ヤモメは千賀子の家の前にいた。 千賀子はヤモメが中学3年の時に引越ししてきた。ヤモメとはクラスが違ったが、ヤモメが通っていた書道教室に千賀子が来だしてから、よく話をするようになった。 千賀子の字は天才的にうまかった。書道教室の先生よりうまいの…