ぼくの選択

プロローグ

とうとう彼女と結婚してしまった。ぼくが無精子だってことは、まだ伝えてない。彼女は、いや妻は子供を欲しがっている。彼女が求めれば、ぼくは期待に応えて、その・・・「子作り」ってやつに励んでいる。さいきんは毎日だ。子供なんてできるわけないのに・・・。できたら、奇跡だ。

精子だってことは、これからもずっと言える気がしない。愛しているからこそ言えない。彼女はとってもいい人だ。ぼくの体のことがわかっても、彼女から離婚を言い出すことはないだろう。自分で言うのもなんだけど、彼女はぼくを「思いやる」はずだ。
ぼくは勝手なのか。彼女を本当に愛しているんだったら、はじめから結婚しなければよかったはずだ。なんて勝手で、中途半端な思いやりなんだろう。これではいつか彼女を絶対に苦しめることになる。
いつかはばれるんだ。その時どうしたらいいのか。ひどい結末が待っているのかもしれない。いや、「かもしれない」じゃないんだ、絶対にそうなる。なのに・・・ああ・・。


そう悩んでいた時だった。職場にいるぼくに妻からの着信があった。仕事中にかけてくるなんて何か緊急のことに違いない。トイレに行くふりをして妻に電話した。

「もしもし?」
「もしもしあなた!?私、妊娠したわ!」

奇跡が起こった。いや「これは奇跡なんだ」と思い込もうとしているぼくがいた。これでいいんだ。これでいいんだ。
ぼくが無精子だということを彼女が知らないように、ぼくも彼女の全てを知っているわけじゃなかった。それでもいい。妻が待望していた「ぼくらの」赤ちゃんができたんだ。もしぼくに似ていなくても大事に育てよう。いや、似ているわけがない。似ていたら、それこそ奇跡なんだから・・・。

―――
実は、「妻の隠し事」は夫が想像したものとは少々、いや、大きく違っていた。実は妻も子供が埋めない体だったのだ。
彼女はある人物と出会ったことをきっかけに「ある計画」を思いついた。彼女が妊娠したというのは「嘘」である。この「嘘」が彼女の計画の中で、一番初めにすること。
史上初、空前絶後の「ある計画」が今スタートを切った。
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この続きは次の章からはじまらないので、各自でかんがえよう。
(さいきん、ブックオフで買った吉村達也の本を読みまくっています!)