不便な生き物


無駄な時間が許せない。たしかに暇ではあるけれど、何かをするには短い時間。ただ待つしかない時間。そんな時間は、そっと見過ごしてやるしかない。
もしくは、そっとすくってやるか。

洗濯機を回している間、何をすれば良いだろうか。いっそ決めてしまおうかとも思うが、決め事が嫌いなので無理だろう。そもそも、洗濯機をいつ回すかもなかなか決められない。いつも限界になってから回しているのだ。

洗濯機を回す。

回すと言っても、洗濯機全体を回す訳ではない。そもそも、「回す」わけではない。「回らせる」あるいは「回ってもらう」だ。
けれど、通じるなら良いか。
でも、良い悪いの話をしている訳ではない。今度から「洗濯機を回す」ではなく「洗濯機の中にある丸いドラムに回ってもらう」と言え、と言っているわけではない。だからこれくらい、考えても良いだろう。

「タバコを吸う」という文を読んで、誰が、そのままのタバコを吸い込んだと思うだろうか。
疑り深い人は、一応思ってみるかもしれない。

言葉だけではない。便利なものには疑いがかかる。
怖いからだろう。
便利さにいつか騙されて、いつか痛い目にあうのでは。今まで便利だった分が一度に襲い掛かってくるのでは。

開かない自動ドアには頭をぶつけてしまう。
開くたびに「便利だ」と思わないからだろう。そういうものは、すでに便利ではないのかもしれない。つまり、便利と言われている間は、きっと不便で、頻繁に故障している。それか、たまにしか使わないか。

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洗濯機が止まった。
洗濯機は、とても便利だと思う。