あるだけまし

休憩室で食べる昼食というのは、どうもいけない。食べるものが味気ないとか、素っ気無いとか、そういう問題かなと思ったこともあるが、それだけでは説明がつかない。同じものを家で食べても、ずっとおいしいのだ。

休憩中に職場を離れるのは、本当は禁止されている。けれどこんなものは、世の中にある理由がよく分からない決まりごとの一つであって、すなわち、守る必要がないものだった。たぶん、何かに対しての言い訳だろう。世の中はそんな「お決まり」で溢れているのだ。

そんな言い訳を用意して、今日は、公園でお弁当を食べている。なんだかとても幸せな気分だ。開放的だ。ストレス・レスだ。
急に「躍りたい」と思った。思い切って足だけでリズムを刻んでみる。貧乏ゆすりにみえたかもしれないけど、気にならなかった。
誰も見ていないから。ぼくしかいないから。

木の影になったベンチに腰掛け目の前にある大きなおもちゃを見据えた。外国の人が作ったトリック・アートだそうだ。ぼくには子供の遊戯場にみえた。

いつもとは別の時間が流れ、瞬く間に休憩時間は終わった。少し遅刻してお店に戻ると、ぼくの知らない人がいた。
それはたぶん、ぼくだった。
ほんの少ししか見なかったけれど、それだけで十分、この事態に気付いたぼくは今、さっき居た場所へ急いで向かっている。

はやく、はやく、はやく。

はやくしないと、ぼくはきっと消えてしまうだろう。そういう存在だと、わかってはいたのに、いざそうなるとびっくりしてしまう。前もこうだった。

たしかあの時は―――。