役所仕事

「笹舟造船所経営、ってなんですか」
「そのままです。笹舟を作っております」
「はあ。笹舟ねぇ・・・。ちょっとー!西田サーン!すいませんね、今上司を呼びますので・・・、西田サーン!?あれえ、さっきまでいたのにな・・・。えっと、なんでしたっけ、笹舟?」
「笹舟です」
「笹舟っていうと、笹の葉で作った船ですか?」
「それ以外にありますか」
「ありません。ええ、ありませんよ。まいったなぁ」
「もしかして、笹舟を御存じ無い?」
「知ってますってば」
「じゃあ作れますか」
「作れますよ、うん。でもずいぶん昔のことだから」
「あまり自信がおありでない」
「あなたは自信がおありのようで」
「もちろん。それで生計を立てているくらいですから」
「うーん。まあいいや。誰が買うんですか、そんなもの」
「そんなものとは」
「いや、失礼・・・。どんな人が笹舟にお金を払うんですか?」
「想像できませんか」
「ええ、全く思い浮かびません」
「では思い浮かべてください。川に浮かぶ笹舟を。いいですか?」
「はい。いいですよ」
「それは誰が浮かべたのでしょう」
「うーん。私です」
「ちがいます。笹舟造船所の者です。つまり私です」
「そうなんですか」
「どうして何度も後ろを振り返るんです」
「いえ、上司がね、なかなか来ないものですから」
「いいですか。世の中の笹舟は、全て私が作っているんです」
「いいです。もうそれでいいです」
「不思議だと思いませんか?あなたは笹舟を作れると言った。つまり作った記憶がある。なぜ、いつのまに、作ったなどと思い込んだのでしょう」
「思い込んでませんって。あなたこそ、世の中の笹舟を作っているなんて、それこそ思い込みじゃありませんか?」
「いいえ、事実です。ようやくまともに話をしてくれるようになった」
「一応、仕事ですから」
「大変ですね」
「ええ・・・。ところで、私が作った、いえ、私が作ったと思い込んでいる笹舟ですけど、それにお金を払った記憶が全く無いんですが」
「当然です。あなたから直接お金をもらったわけではありません。警察が事件の被害者からお金をもらわないのと同じ理屈です」
「あれ、というと、あなたは公務員なんですか?」
「違います。国が笹舟に国家予算を割くわけが無いでしょう」
「じゃあ誰からお金をもらうんですか・・・。これじゃあぼくが馬鹿みたいだ」
「支援者です。笹舟造船所支援者の会、というものがあります。今は4人のメンバがいます」
「たった4人」
「たった1人で世界中の笹舟を作るよりは簡単です」
「そうですね。無理ですもんね」
「0.2秒」
「えっ」
「0.2秒。これが何か分かりますか」
「0.2秒というと、ちょうど1秒の10分の2です」
「おまえは高田純次か」
「えっ」
「いや、失礼」
「びっくりしたぁ」
「私が笹舟を1つ作るのに要する時間です」
「すごい。でも、それをどうやって世界中に持っていくんですか」
「それは考えていなかった」
「次の人ー」
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(ホラ話承り課より)