焼き鳥屋

その焼き鳥屋に入ると狭い店内のカウンタ内に店員は居なかった。カウンタの向かいに客が2人並んで座っているのと、ボックス席に1人。その1人が、読んでいる新聞を下げ、ぼくらに一瞥をくれながら「いらっしゃい」と言った。口には煙草を咥えている。ぼくは、なんかやばい、と思ったが、隣の山君はるんるん気分でカウンタ席に腰掛けた。
2人とも車で来ているのでお酒は飲めない日だった。ぼくがソフトドリンクを選んでいたら、「今はウーロン茶しかないねぇ」と言われた。その時は、そういうこともあるか、と思ってウーロン茶を注文した。すぐ用意された冷たいウーロン茶は旨かった。ふと店員を見ると、なぜかコーラを飲んでいる。やっぱり帰った方がいいかもしれない、と思ったが、山君は既に焼き鳥を注文していた。
―――えっと、モモ肉、とり皮、レバー、「ああレバーは無いねぇ」、じゃあえっと、ハツ、「ハツ無いぃ」、えっとじゃあスープは、「スープ今全部無いねぇ」、じゃあつくね、「ご飯食べにきたの?」、はいそうなんですよ、「ご飯物も全部無いねぇライス切らしちゃってるから」、じゃあとりあえずそれで。
ウーロン茶をちびちびやりながらぼくの腸は煮え繰り返っていた。100歩譲って無いものは仕方無いとして、その断わり方は何だ。無いねぇ、って、はずれぇ、か。当たるまでのゲームか。
ぼくは最後までほとんど口をきかず、山君が頼んだ焼鳥を半分ずつ食べて店を後にした。
ちなみに、第二弾を頼もうとした山君に返ってきたのはこんな言葉だった。「ああ〜さっき頼んだやつくらいしか無いねぇ」
その後、カラオケで憂さを晴らしたことは言わないとわからない。