ワンランク上のかわいそうな瞬間

「最近、11人の同僚と一緒に夕飯を食べに行ったんだけれど、そこでとても嫌な気分になったんだ。そこでは、まず俺の頼んだホイコーロー定食が一番初めにでてきた。君ならどうする」

「どうするって、どういうこと」

「だから、君はそれを食べるの、食べないの」

「食べる」

「そうだろう。食べたんだ。そしたら次に、ぼくの斜め向かいに座った女にラーメンが到着した。するとどうだ。その女は食べないんだ」

「なぜ」

「次に、ぼくの隣に座った女にもラーメンが届いた」

「おい、なぜなんだ・・・」

「するとどうだ」

「食べないんだろう、どうせ」

「そうなんだ。ガンとして食べない。そして次は、ぼくの右斜め向かいに座った女にチャーハンセットが届いた」

「女が多いな」

「そういう職場なんだ。するとどうだ。また食べないときやがる」

「まだ続くのか」

「いや、これからも『するとどうだ』の連続だから省く。3回に1回くらい『きやがる』も入るけど」

「結局、お前以外、誰も食べなかったのか」

「そうだ。俺は途中で聞いたよ。『なんで食べないのか』って。そしたら女の1人がこう言うんだ。『まだ料理が来てない人がいるから』」

「それが理由になるのか」

「そう思うだろう。だから俺はさらに、『なんで料理が来てない人がいると、食べないんだ』と聞いた。するとどうだ。『かわいそうだから』と抜かしやがる。

「かわいそうだから」

「かわいそうだから。俺はかわいそうなことをしたのかな?」

「したのかな」

「じゃあ逆に、他の人に早く料理が到着したとしよう。その人がそれを食べる。そのとき俺は、かわいそうなのだろうか。いや違う、断じてそれはなああああい!!」

「うるさいなあ」

「はぁ・・・はぁ・・・俺はこれからも食べつづける。なんでかって?それは、誰だってご飯を食べる時、誰かをかわいそうにするために食べたりはしないからだ。ご飯を食べる時の気持ちほど、純粋なものは無いだろう。お前がご飯を食べるのはどんな時だ?」

「お腹がすいた時だ」

「そりゃあそうだろう。そうじゃなくて、そのときどんなことを考えるんだ」

「特に何も考え無いが、強いて言えば、どのおかずから食べようかな、とか、これでお腹一杯になるかな、くらいだ」

「そのとき他人のことを考えたりするか」

「他の奴がいるのに俺にだけ飯がある、という状況なら考えるが、そいつにも後でご飯が届くなら、なにも考える必要は無いだろう」

「そうだろう!みんな条件は一緒なんだ。お金だって、割り勘だ。どこに『かわいそう』という要素が入ってくるんだ。そもそも、『かわいそう』って何だ」

「かわいそうって、何だ。わからないけど、お前はなんか、かわいそうかも」

「うん。飯を食うのがみんなより少し遅れるくらいがなんだ。あの時は、もっとかわいそうな俺がいたんだ」