少しは都会

ぼくは都会が好きである。色んな人がいるからだ。また、色んな人がいる中で、自分の存在が薄くなるのも良い。いい按配の孤独が得られ、半透明人間になっている感じだ(あまりうまくなかった)。

今日は新潟に行ってきたのだが、駅構内の階段を上がっていたら、上から来た女性が階段の一段目を踏み外し、派手に転んできた。
その女性は、足を支点にして、頭で半円を描く形で全身を階段にぶち当てたあと、そのまま下に「ガガガ」と三段ほどスライドして止まった。その時、うずくまる女性のすぐ下にぼくがいた。距離は1メートルも無かった。
とっさに「うわー!!(今思うと失礼である)、大丈夫ですか!?」と言った。そして、女性が顔を歪めながら起き上がった時、その女性がとても美しいことに気付いた。ぼくは続けて、つとめてジェントルな口調で、「大丈夫ですか?怪我、ありませんか?」と言った。
しかし(しかしか?)女性は「大丈夫です・・・すいません・・・すいません・・・」と言いながらその場を去った。謝る必要はどこにも無いのだが、驚かせてすいません、という意味かと思う。
その後、駅の外のベンチに行き倒れのような形でたれている若い女性を見つけた(女性を見つけるのは得意である)。ベンチの下には真っ白なゲロが盛り上がっており、酔っぱらいだということが判断できた。
今度は「うわー!」と言わず、はじめからジェントルに行く計画を頭の中で練ったが、そのうち女性の連れと思われる男性が来たため、チャンスを逃した。
ゆっくり二人の傍を通り過ぎると、会話が聞こえてきた。

「大丈夫?どっか休めるとこ行こうか?」
「大丈夫です・・・本当に・・・」

二人は知り合いではなかった。

休めるところへは連れて行くだけで良いのに、なんだか一緒に休むみたいなニュアンスだ。それに、女性は今休んでいるのに、これ以上どう休むのだろうか。変なところへ連れて行く腹づもりかもしれない。
都会は油断も隙も無いな、と思ったが、逆に油断だらけと言えるかもしれない。本当に油断も隙も無いのは、田舎の方だ。