(2)「レイアース方式」

―――(オムニバス小説ゴッゴルシリーズ)―――
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よし、これからスイミングタイムだ。と思ったら、不思議な事に、僕らはすでに水着に着替えており、ちゃんと水泳帽までかぶっていた。コレは一体・・・。僕はたまらず声をだした。
「伊集院君、コレは一体どういうことだとおもう・・・?」
「この部屋は何かおかしいですね・・・」
たしかにおかしい。とにかく冷静にならなくては。とりあえず僕らは深呼吸をした。そして屈伸運動をして、その次はアキレス腱を伸ばした。そしてプールの水を胸にすこしかけてから、プールにザブン!と入った。
違う。僕らがすべきことはこんなことではない。たしか・・・そうだ、この部屋で「ゴッゴル」研究をしなくてはいけないんだった。僕は伊集院君と水球をしながらそう思った。ボールはいつのまにか、そこにあったのだ。まるで、僕らが「ボールが欲しい」と思った瞬間に、そこに発生したかのようだった。ああおかしい。この部屋はおかしい。なによりも笑いが止まらない。ああおかしい、楽しいな。
どれくらい遊んだだろうか。僕と伊集院君はくたくたになってプールサイドで寝転んだ。もしこれが「かまいたちの夜」だったなら、あのままおかしな世界にとりこまれてBAD ENDとなっていただろう。そんな変な世界だった。だが、プールサイドで寝転んでいるうちにだいぶ冷静になってきた。さっきも思ったが、ぼくらは「ゴッゴル」研究のためにここにいるのだ。
「伊集院君。僕らはゴッゴルを作るためにこの部屋に来たんだ」
「そうですね。作りましょう」
遊んでいる時に、だいぶこの部屋の「こつ」はつかんでいる。要するに、僕らが望んだ物が出てくるのだ。水着、水球のボール、浮き輪、タオル、僕らが「それはそこにある」と思えば、なんでもでてきた。
僕は今一度、ポカリスエットを出そうと試みた。ほうらね。今までそこにあったかのように、ポカリスエットの缶は僕の横に出現した。しかし、プルタブを開けそれを飲んでみたら、水で薄めたような、変な味がした。僕のイマジネーションが弱いのかもしれない。少なくとも、「ポカリスエットの味」は「ボール」のイメージよりは難しい。本気で岩が砕けるところがイメージできないとそれが実現しない、魔法騎士レイアース方式かもしれない(アニメでちょっぴりしか見た事がないので、もしかしたら誤解しているかもしれないが)。というかここはスルーして欲しい。
一方伊集院君は、完璧な井上和香を出現させていた。完璧な井上和香の「等身大ポスター」を。僕らは、もし本物の井上和香を見た事があったなら、と強く思ったが、「もし」を強く念じても、僕らの周りに変化は起こらなかった。いや、寺山修司が現れた。どうやら伊集院君が出したようだ。
「振り向くな、振り向くな、後ろには夢がない」か。
というか伊集院君は何か後悔するたびにこの詩を思い出しているのだろうか。だとしたら逆にネガティブだと思うが。もちろん余計な事なので口には出さなかった。
それに、寺山修司こそポスターで十分ではないか。なぜ本物を出すか、そして出せるか伊集院君。まだこの部屋の基準がよく分からない。もちろん伊集院君の事もよく分からない。
つづく