(5)「コツは『うぬぼれ』だった―勝ってもうれしくないかも・・・―」

―――(オムニバス小説ゴッゴルシリーズ)―――
「伊集院君、頭の中にはあるんだけどうまく表現できない事ってあるでしょ。表現しても、頭の中にあるものと形が違っちゃうやつ。ゴッゴルの特徴の『すぐ別のものに変わってしまう』ってそういうことなの?」
「言ってることがよくわからないんですけど」
「ああそう・・・」
「『頭の中にはあるんだけどなぁ』とか言うと、よく怒られましたよね、教授に」
「うん・・・。『それはね、無いんだ』でしょ。でも僕が言いたいのは、そういう感覚があるよねって事なんだ。無いのに有るって思っちゃう事。錯覚があるでしょ」
「それなら分かります。有るんだと思っていても、それがどう有るのかを表現するために分析した瞬間に本質から遠ざかる物ですね。だからその有るというのは、本当に有るかどうかとは関係なくて、ただ有るんだと思っているだけだっていう話ですね」
「そうそう。本当の事とは関係ないよ。実際に有るかどうかは確かじゃないけど、有ると思っていること自体は確かって事だよ」
「感覚だけの『有る』ですね」
「そうなんだ。ここはもう感覚だけの世界でしょ。だからさ、錯覚をすればいいんだと思ったんだよ。現実にはそんなもの無いのに、頭の中だけで有ると錯覚しているものに限定して考え抜くんだ。そうするとそれは実際には無いものだから、考えているうちに、最初に有ると思っていた感覚からはどんどん形が変わっていくでしょ。伊集院君がさっき言った、『分析した瞬間に本質から遠ざかる』って感じ」
「でも、最初から現実に無いって分かってるってことは錯覚していないって事になりませんか?」
「ところがどすこい、無いってわかってても有ると思いたいことって有るんだよね」
「たとえば?」
「それは言えない。恥ずかしいから!」
「『私は天才だ』とかですか?」
「まぁそんなとこだよ。つまり、うぬぼれを探すんだ」
「かなり言ってる事がわかりました。ところで、今話してくれた事は、僕がこの間つかんだ『第二のコツ』の説明になっている気がします。コツは感覚だから人に説明できないと思ってたんですけど、あんがい共通理解って可能なんですね」
「まぁ僕の成せる技だよね」
「うぬぼれ発揮ですね」
「うん」
つづく