日記

じいちゃんが退院した。元気になって、家で良く動く。犬の散歩とか洗濯物をたたむとか。でもまだ病み上がりなので、できるだけ僕とかがするようにしている。僕とか弟が。
ばあちゃんは手術後しばらくは、21針も縫った腹が痛くて死にそうな声を出していたが、実際、あんまり様子がひどいので、「死ぬかも」とか思っていたが、抜糸をしてからは、少し動けるようになった。うめき声ばかり出して朦朧としていた頭もかなり正常になって、こっちがむかつくくらい達者に喋るようになった。これで退院されたらもっとむかつく事になるだろう。ばあちゃんが退院したら実家に帰るのは控えようと思う。こういう距離感だ。
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ところで、じいちゃんの元へは、一日に一回は、なんらかの用事で電話がかかってくるし、じいちゃんもよく電話をかけている。じいちゃんは年の割にかなりしっかりしていて、リーダーシップがあるので、色んな事のまとめ役を頼まれている。近頃かかってくる電話はゲートボールの用事がほとんどだ。じいちゃんは地元のゲートボールチームのまとめ役をまかされているのだ。
この間じいちゃんは「自分のチームが大会に出れなくなったので、どこかのチームに代わりをお願いしたい」と、たくさんの人に頼んでいた。ゲートボールは趣味で楽しんでいる人たちばかりなので、不戦勝では誰もよろこばないのだ。とにかくチームが集まらないとおもしろくない。だからただ「出ません」だけではいけなくて、出れなくなったチームの代表は代わりのチームを用意しなくてはいけないのだ。と僕は推測している。
用件を伝える相手は自分と同じくらいの年で、だいたい70歳から80歳くらいだ。じいちゃんの電話を隣で聞いていてわかるのだが、うちのじいちゃんに比べて、電話相手のじいちゃんの声はまさに「老人」と言った感じだ。「老人」とは、方言がきつくて話のスピードはゆっくりで、何より話がなかなか本題に入らず、世間話が長い。そんな「老人」達を、じいちゃんは「アノネェ!」という鋭い声で、話を一瞬で本題へ持っていく。フォントで強調したくらいに、「アノネェ!」は鋭い。それはめんどくさいので省く。
「もしもしー、〜さんですか。いつもお世話になってますー。・・・・・・・・・アノネェ!私具合が悪くてウチのチーム今度の大会に出れないんだわぁ。それで・・・」と言った感じだ。こんなやりとりを、うちのじいちゃんは連続でこなしていった。
電話を切る前に、「よろしくどうぞー」というのも決り文句だ。用件を伝えたらなにがなんでも、「よろしくどうぞー」と言い会話を終了させ、受話器を下ろす。そして、すぐに次の相手に電話をし、数秒後「アノネェ!」、更に数秒後、「よろしくどうぞー」&ガチャン!だ。このやりとりを幾人とも交わしていく。録音したいくらい面白かった。
そういえばじいちゃんは昔に、「俺は電話は嫌いだ」と言っていた。
ところでばあちゃんは一回受話器を取ると、自分がかけたときも相手からかかってきた時も、一時間は話をする。僕もたまに電話がかかってくるのだが、ばあちゃんの電話はなかなか切る事ができない。さすがに一時間話す事は無いが。じいちゃんの「アノネェ!よろしくどうぞー」は、ばあちゃんに通用するのだろうか。
問いでしめると、なんとなくまとまったような気がするので終わりとする。