やは遅かったじゃなひか

「まだ若いけど、いいのか?」ぼくは写真を見ながら言う。
「こいつはもう18だ」隣の男は言う。
「18ならいいのかよ」ぼくは言う。
「問題は年じゃない。俺は14のガキを相手にしたこともある。さすがに嫌だったが、でも、じゃあ、いくつならいいんだ?」隣の男はぼくをちらりと見た。
その通り。年なんて問題じゃない。そいつがどんな奴かも、関係ない。どんな理由をつけても、殺していい人間なんて、1人もいないからだ。

「サポートは俺だ」隣の男は言う。
「1人でできるよ」ぼくは言い返す。
「ガードが半端じゃないんだ。無理だよ」
「どれくらい?」
「大統領とか、ヤクザの組長とか、そのくらいだ」
「その2つって同じなの」ぼくは聞く。
「わからない。どっちも相手にしたことが無いからな」
「ぼくだって同じだ」ぼくは続ける。「無理そうなら頼むっていうのは?」
「意味が無いな。初めから2人でやった方が早い」
―――
本当は、いつでも1人でやりたい。ターゲットと会話がしたいからだ。どんなことでもいい。道を聞くだけでも良いのに、今回は危険すぎて、ただ遠くから一発。相手が倒れるのも見届けられなかった。
「どうなった?」ぼくはマイクに向かって言う。
「やったとおもう」イヤフォンの声は言う。「今運ばれてる」
「そう」ぼくは消えそうな声を出す。
「元気が無いな」イヤフォンの声は言う。
「愉快な声でも出せば良い?」ぼくは言う。「いや、悪かった。ちょっと簡単に行き過ぎたから、なんていうか、手ごたえが無いんだ」
「手ごたえなんて必要ない」イヤフォンの声は言う。「そんなもの求めても、危険なだけだ」
ぼくは近づいてきた車に乗り込んだ。
「そのとおり」ぼくはイヤフォンを外しながら言う。「でも、これに何の意味があるのかって、考えたことはないの?」
「若いうちに考えることだ」隣の男は言う。「俺はもう何も考えない。考えないから、生きてこれた。そう思うようにしている」
「ぼくだって死ぬ気はないよ。でも、ターゲットはぼくを見ると、誰でも驚く。その時いつも、考える」
「おまえがまだ16だからだ。それだけの意味しかない」隣の男は言う。「やっぱりお前、危険だよ」
「何が」ぼくは投げやりに聞き返す。
「気付かれてから殺すっていうやり方だ」
隣の男はぼくのわき腹に銃口を押し付ける。
「俺が今何を考えていると思う?」隣の男は言う。「いいか、何も考えていないんだ」
「冗談だよ」隣の男は、銃口を逸らしながら言う。「とにかく、そんなことやってると、いつか死ぬぞ」
ぼくは自分の銃を素早く隣の男の額に向ける。
「その顔だ」
ぼくは、今日2度目の仕事を終らせた。
助手席からハンドルを握る。惰性で走りながら、銃口を自分の頭に押し付けてみた。
馬鹿らしくなって、フロントガラスに2発、撃ってやった。