夏のせいかしら

最近日が長い。仕事が全て終わった頃、ようやく外が暗くなる。
今日の夕方6時くらいか。事務所を覗いたら、万引き犯が捕まっていた。40代後半か50代の女性だ。万引きGメンの横で、俯いて、じっとしていた。たぶん、店長を待っているのだろう。
下世話な興味心から、事務所の横を行ったり来たりしていたら、あるとき突然、万引き犯の女性が泣き出した。泣き声はどんどん大きくなっていって、それから、ごめんなさい、許してください、を何度も何度も繰り返していた。本当にずうーっとだ。店長は困っていた。そのうち、ぼくもなぜか困ってきて、もらい泣きしそうになったので、事務所からは離れた。
警察が来て身柄を引き取った後、店長の話を聞くことができた。
「警察が、泣いてる万引き犯に向かって、『あんた!初めてじゃないんだから!』って言ったんだよ。俺『はあっ!?』って言いそうになっちゃったよ」
久しぶりに、変な世界だ、と思って、笑った。この世は夢よただ狂え、だ。
―――
きのう店の飲み会があった。またぼくが幹事だ。かなり面倒臭いのだが、社員の中でぼくが一番負担が少ないので、文句は言えない。
ぼくが気になっているYさんは、その日仕事が休みだったので私服でやってきた。普段はつけないアクセサリーもつけていた。2人きりだったら素直に「綺麗だね」と言えたと思う。
乾杯からしばらくしたら、当然みたいにぼくを目の前に呼んで、サラダをよそってくれたり、グラスが空くと飲み物を頼んでくれたりして、すごく気分が良かった。
何か一緒にスポーツでもやろうか、みたいな話をした。お互い、昔バスケをしていたからバスケかな、とか、ゴルフをしてみたいなんて話をしたけど、約束はしなかった。
明日用事があるから、と言ってぼくは22時くらいに帰った。「本当にもう帰っちゃうの?」というのが、その日のYさんの一番素直な発言だった。
大人になると馬鹿みたいに素直にはなれなくなるのはなんでだろう。本当の気持ちを伝えるのも、読み取るのも、すごく苦労する。そんなことをしているうちに、自分の気持ちさえはっきりしなくなってくる。これって悲しいことだけど、昔より、傷つく元気が無いのは確かなことだから、ある程度は仕方ないのか?
でも、相手に素直さを求めている時って、その時の自分が素直じゃなかったりするものだ。