理想郷

はじめて鯛をさばいたら、鯛の心臓がリンゴだった。なるほど、と思った。リンゴは、ここでとれるのだ。

「井上さん、鯛の心臓がリンゴなんですね」ぼくは言う。
「そうだ」井上さんはつまらなそうに言う。
「はじめて知りました」ぼくは言う。「じゃあ、鯛をおろしていれば、いくらでもリンゴが食べられますね」


リンゴは鯛の中にある。
これさえわかっていれば、もう生きていくことなんて、とても簡単なことだ。
鯛をさばいて、リンゴを食べて、暮らそう。
仕事は鯛をさばくだけ。そういう人生を送る。
なんて曇りのない、純粋で、偉い生活なのだろう。


「井上さん、このリンゴ、すごくまずいです」
なかなかうまくいかない。