からまわり

彼はいつも空回りしていたと思う。小中と同級生だった「ノリちゃん」のことだ。女性ではない。
ノリちゃんは怒りのスイッチが変だった。たとえば小学校の頃、ぼくがK君とケンカをしていた時、何を思ったか彼は、ぼくの腕を捻りあげてこう言ったのだ。
「これ以上やるなら容赦しないよ・・・」
この時ぼくは、ケンカの勢いでノリちゃんを殴り倒してしまいたかったが、きれいにヒジがきまっていたようで、少しも動かす事ができなかった(何か習っていたのかもしれない)。結果ぼくは、無様にも「わかったからやめて!」と叫ぶ事しかできなかった。
空気が読めていないノリちゃんが恐かったのもある。あの時抵抗していたら、今のぼくは無いだろう。ヒジというのは一度壊すと元に戻らないそうじゃないか。100%漫画の知識だが。
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彼の怒りのスイッチは、本当にいつ入るか判らない。これも小学校の頃の話だ。
教室の後ろのスペースで、ぼくとノリちゃんを含む何人かで、ふざけあって押し合いをしていた時のことだ。たぶんぼくの押し具合が気に入らなかったのだと思う。
ノリちゃんが急に、真顔でぼくを睨んだ。
なんとその次の瞬間、ノリちゃんはぼくをベランダ方向に向って思い切り突き飛ばしたのである(ものすごい力だった。やはり何かやっていたのかもしれない)。
ぼくは窓ガラスに、とっさに出した左腕からつっこんだ。ガラスは「ガチャーン!」と派手な音を立てて割れた。クラス中騒然となる。そんな中、ノリちゃんは腕から血を流すぼくに駆け寄ってきて、こう言った。
「ごめん。大丈夫?」
ここでもキザである。
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そういえば彼は、自分の部屋にトラップをしかけていた。誰かが勝手に自分の部屋に入った時に、これが絶大な効果を発揮するのだと豪語した―――
椅子に画鋲のトラップ。
言うまでも無いが、自分のケツに刺していた。
(ノリちゃんは他にも伝説を多く残しているが、今日はこのへんで勘弁しておく)