がきめら

子供のころ、誰でもこんなことがあったと思う。
例えば、10こくらい年が上のお兄さんとどういう訳だか仲良くなって、毎日遊びにいったりする。でも、お兄さんの大切にしているプラモデルを壊してしまったのをきっかけに、2度と遊ばなくなってしまうのだ。
また例えば、ある友達の家のブロック塀の隙間には、時々ファミコンのカセットが挟まっていたりする。見つかる度に、また挟まってる!と大騒ぎになるけれど、『高橋名人の冒険島』が挟まっていたのを最後にぱったり無くなってしまう。

ある夏休みには、ある会社の受け付けで冷たい水が飲めるという噂が広がる。その会社の1階には冷水機があって、誰でも自由に水が飲めることがすぐにわかるのだが、今度は誰かが、そこからジュースが出てくる、と言い始める。

また、隣の家にきれいなお姉さんが住んでいて、時々自分を気にかけてくれる。怪我をしたときとか、大きなカブト虫を捕まえた時とか。
そして、少し大人になった頃、そのほとんどが夏の記憶だったことに思いあたり、夏休みに帰省していたんだな、と納得したりする。母からの、どこどこに就職したんだって、というのを最後に、彼女のたよりは聞こえなくなるのだが―――。

ぼくがずいぶん大人になった頃、そのお姉さんは隣の家に戻ってくる。ぼくと同じだけ年をとったはずなのに、未だにきれいなお姉さんのままで。
まるで、ドラマの登場人物だ。女優みたいにきれいだし。
そして、高校の始業式。
書道の先生としてお姉さんが壇上に立った時。
すごく悩んだあげく、美術を選択したりするのだ。