わたしの裏の顔

ぼくはスーパーで魚屋をやっている。名前をコムギコという。もちろん仮名である。しかし、どうもカッコ悪いので、これからはKと名乗ることにする。魚屋というのも冴えないので、探偵を名乗ることにする。もちろん名探偵だ。
長く名探偵を続けていると様々な事件に巡り会う。偶然なのか、はたまた仕組まれた罠なのか。わたしの身の回は常に血なまぐさいことで満ちていた。
生臭いのは魚だけで十分だ。しかし、魚屋がそうであるように、慣れれば何も感じなくなってしまうのが人のサガである。
だが中には心に残る事件もある。これはその1つである。
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事件は一見、難航するかのようにみえた。全く証拠が見つからなかったからだ。しかも密室である。現場は魚屋の中。男が1人地溜りの中で倒れていた。そして被害者の傍らには、人の頭くらいのマグロの塊があった。
「なに?名探偵Kがここで働いてるって?」伊佐木刑事は唐突に言った。
彼が驚くのも無理はない。名探偵Kと言えば、すごく有名なのだ。どれくらい有名かと言うと、googleで検索すると869,000 件もヒットするから、「名探偵Q」(780,000 件)よりは有名である。
現場には、2人の刑事と関係者が集められた。関係者は、私、レジの坂上、肉屋の小畑、庶務の小林の4人である。
「そうです私が名探偵Kです」私は名乗り出た。「ここは私に任せてもらいましょう。幸いここは魚屋の中。私にとっては専門中の専門です。悪いがあなた方の出る幕は無い」
「なんだって!?」坂倉刑事が大声をあげた。若い方の刑事である。「いくら名探偵だって、許さないぞ!」
「犯人はこの中にいる!」私は無視した。
私は肩から下げたナップサックを開くと、犯人を取り出した。
私が名探偵と言われる理由はここにある。あまりに名探偵なため、事件がはじまってすぐに、犯人を捕まえてきてしまうのだ。

犯人は全くの部外者だったが、時々、うちの店に買物に来ることがポイントカードで確認できた。被害者との関係がはっきりしなかったが、すぐに犯行を自供したため、私は助かった。
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事件は一見、解決したかのように見えた。しかし3日後、また私の職場内で人が殺されたのである。しかも被害者は先日の犯人だった。
「一体どうなってるんだ・・・」坂倉刑事がつぶやいた。
私たちはまた現場に集まった。被害者の傍らにはまたマグロの塊が落ちている。このマグロについては、先回の事件の時、被害者の最後のメッセージだろうということで決着がついている(どんなメッセージなのかはわかっていない)。
「わかった!」私は叫んだ。
私はわかると「わかった!」と叫ぶ癖があるのだ。小学校の授業中に、私が「わかった!」と叫びすぎるため、わかっても「わかった!」と叫んではいけない、というルールができたくらいである。
そしてやはり、被害者の財布にはその証拠が残っていた。
「犯人は・・・」私はつぶやいた。「いえ、とりあえずこれを見てください。今のレシートにはレジを打った者の名前が入るようになっているのです。これも坂上、これも、これも、これも。前の事件の被害者の財布も調べてみてください」
これはすぐに調べがつき、前回の被害者も坂上の打ったレシートばかりを持っていることがわかった。
「しかし一体・・・これはどういうことなんでしょう?」年配の伊佐木刑事が私に聞いた。
「詳しいところは坂上に聞くんですな」私は言った。「しかし愛ってのは怖いですなぁ、人を殺すんだから」
それにしても愛ってのはやっかいなものですな。私たちは愛によって生まれたはずなのに、それが人を殺すものにもなるなんて。表裏一体というか諸刃の剣というか。いやしかし、そんなものなのかもしれませんな。私たちが決め付けられることなんて何も・・・など言っている時には、私の周りには誰も居なかった。


このことがあってから坂上は。逮捕こそされなかったものの、影ではマグロ女と呼ばれ、事件もぱったり止まったのであった。いよっ!名探偵!