いい選択肢

駅南(駅とは新潟駅のことです)のブックドームの成人向けコーナーをうろついていたら、5歳くらいの女の子が小さな男の子の手を引いて、18禁の長いのれんを割って入ってきた。すぐに出るだろうと思って見ていたら、中々出て行かない。
そのうち、壁の向こう側から子供を呼ぶ母親の声が聞こえてきた。向こう側へ行ってみると、ゲームと漫画のコーナーをぐるぐる回って必死に子供を探している。ちょっとかわいそうである。
そこでぼくは少し迷った。
母親の方に声をかけ、あっちにいますよ、と教えるのが良いのか。それとも、子供の方に、お母さんが呼んでるよ、と言おうか。
だがすぐに決めて、子供のお姉ちゃんの方に、「お母さんがあっちで呼んでるがね。はやくいってあげれて」と、素朴な新潟弁を使うことになった。
ぼくの言った事を理解した姉弟が向こう側へ行ったとたんに、母親の悲鳴が聞こえてきた。
「そこは絶〜〜〜〜〜〜〜対に入っちゃ駄目!」
「なんで〜?」(姉)
「なんでじゃなくて、そこは絶対に入っちゃ駄目な場所なんだからね!!!」
絶対に入っちゃ駄目な場所から出てきた男に、子供があっちにいるなんて言われたら、いくら親切でもやっぱり嫌だろう。それに万が一、おまえが連れて行ったんじゃないか、なんて思われたりしたらやっかいである。母親の方に声をかけなくて良かった、と思った。
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今回のように、壁で完全に区切られたパーティションじゃなくても、18禁コーナーというのは、それを必要としない人にとっては無いものとして扱われる。それを知っているからこそ、そこへ入ったり出たりするとき、異次元に入ったり出たりするみたいな感覚になる。
スッと別の人間になる感じもする。しかし、会計をする際に突然戻される。いまぼくはどっちの人間として振る舞えばいいんだろう・・・と。会計の間に、体の中でぎくしゃくしたシャッフルが行なわれ、なんとなく統一しない気持ちで店を出ることになる。
だからブックドームみたいなアダルト専門のカウンタがある店は気楽である。もうツタヤでなんて、ぜんぜん買いたくないし、借りたくない。まだまだ剛の者への道のりは遠い。