12年前に言えなかった言葉を言うよ

子供の頃は、何かに関わるのではなく、何かに関わらないことでしか自己表現ができなかった。具体的に言うと、文化祭に出ないとか、そんなことだ。
やりたいことが無いから、やりたくないことばかり探して、それから逃げることでしか自分というものを確かめられなかったのだ。
今は、誰もぼくに強制はしない。勉強しろとも言われないし、家業を継げとも言われない(実家が家業を営んでいない)。
逃げてばかりいたのに、誰も追っかけてこなくなったら、今度は自分から色んな人に関わるようになった。逃げることで強固になれた自分が壊れてきて、次第に軟弱になるアイデンティティをもう一度強固なものにするためにぼくは動いた。それでも昔みたいに自分を信じきるところまでいかない。でもそれで良いのだと思う。
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中学一年生の頃、悟ったようにぼくに話し掛けてきた男がいた。
「プライド捨てると楽になるよ」
みたいな事を言われた。その時のぼくは頭に来るよりも、その通りだと思った。俺だって楽になりたいよ、と思った。それでも、彼の言うプライドを捨てられずにずっといる。
考えてみると、ぼくは別に、プライドを捨てて自分から誰かに関わるようになったんではない。いつのまにかそういうことができる自分が居ただけだ。
それは、子供じみたプライドを、一度認められたというのがあるだろう。バカみたい、とは言われずに、格好良いね、と言ってもらえたから、次に進むことができたような気がする。