小学生

タイヨウは、階段を駆け上がると、屋上の扉を静かに開いた。
「伊佐木くん」
「なあに」伊佐木は振り向かずに言う。
「先生が呼んでたよ」タイヨウが遠慮がちに言う。「そこから何か見えるの」
「べつに何も」
「何か見てたでしょう」
「ここからじゃなくても、みえるし」伊佐木は続ける。「ちなみにタイヨウには見えない」
「どうして」
「うん。それは、タイヨウがぼくじゃないから」

バタン。

伊佐木くんに優しくされたら、きっと、私は壊れてしまう。
彼の優しさひとつで、私の心はバラバラになる。
でも、私の心の中に何か大事なものがあるってことを、信じるのを辞めれば―――

「何を考えてる?」伊佐木がタイヨウの顔を覗きこむ。
「べつに、何も・・・」タイヨウは思いついたように言う。「伊佐木くんはわたしじゃないから、わからない」
「ちょっ、何やってる!」
タイヨウに馬乗りになっていた伊佐木は、担任に持ち上げられた。
「何もやってないってばあ!」伊佐木は叫ぶ。「うわ、こいつ泣いてるし」
「伊佐木くんは・・・何もしていません」誰にも聞こえない声で、タイヨウは呟いた。