その頃半そでヤン

先日、山君とお酒を飲んだ。以前から飲もう飲もうと言っていたが、二人とも計画性が無いせいか、ずっと実現していなかった。もっとも、実現を妨げていた一番の理由は、二人で飲む必要が無い、ということである。しかしこの度、二人で飲むのも悪くない、ということになり、死ぬことは無いだろう、ということもあり、二人だけの飲み会が実現した(悪くないことも、死ぬことが無いことも沢山あるが、他に思いつかなかった)。

時間通りに駅で落ち合うと、行く先を検討した。ぼくは、「洋風な食べ物が出てくるところで、落ち着いて飲めればどこでも良い」という条件を出した。それに対して山君は、「焼肉」という返答であった。万能である。ぼくらはすぐに食べ放題の店へと向かった。しかし、焼肉屋の店員は、「あいにく満席となっております」と返してきた。
―――
「作戦を練り直そう。でももう、焼肉を失った心は取り戻せない。それを踏まえて、もう一度考えて欲しい」ぼくは言った。
「中華」山君は言った。「創作の中華料理屋がある」
中華なら焼肉を越えられるかもしれない、あの時失った心を取り戻せるかもしれない、と思った。「中華」という言葉にはそんな力がある。
ぼくは、中華へと向かう途中、「創作の中華料理屋を、捜索中か」と言った。
これは、単なる報告というか、風景描写である。しょっちゅうこんなことを言っているので、「風が二人の間を吹きぬけた」に置き換えても同じである。事実、冷たい風は吹き抜けた。
創作の中華料理屋は異様に愛想が良く、それが度を越しているので逆に居心地が良い、という店だった。店員のテンションの高さに誘発され、ぼくらのテンションもじわじわと上昇し、帰り際に、「外は寒いのでこれをどうぞ!」とホッカイロを渡された時は、喜びのあまり奇声を発した。
店を出てすぐにぼくは、「前に来た時もカイロをもらったか!」と聞いた。
「前は!もらってない!」
そこでぼくらのテンションはさらに上昇した。
「気に入られちゃったのかな!」ぼくは言った。
「かもね!かもね!」山君は叫んだ。
「ホッカイロ、あったかいねー!ねぇ、ところでさー、山君が前にこの店に来たのって、いつ頃?」
「えっとねー、かなり前だなぁ、6月くらいだよおおアアアアアアアッーーーー!!」
「アーーーーーッ!」