いつも祝杯

最近瓶ビールを飲んでいる。銘柄はもっぱらスーパードライだ。
ここへ越してきてはじめて瓶ビールを買ったのが、だいたい二週間くらい前だ。その時はじめて、栓抜きが無いことに気付いた。愕然とした。はじめて下腹部に毛が生えてきたのを確認した時のような、じわじわとした驚愕の感情が襲来した。
はじめ、野菜の皮を剥く特に使うカミソリに似た道具、を使って開けようとしたが、その長い名前の道具は砕け散っただけだった。その次は、割り箸を使って栓を抜くことができる、というのを思い出して(この記憶も怪しいものだ。夢で見ただけかもしれない)割り箸を出してみたが、どう使えば良いのか全くわからない。何よりすぐ折れる。
その間にどんどんビールは温まってゆく。焦った頭で考える。とにかく硬いものが、いる。
そこで満を期して登場したのがスプーンである。
渾身の力をこめ、王冠と瓶のすき間に入れたスプーンを、上へ、とにかく上へと押し上げる。まもなく、「プシュ・・・」という炭酸の漏れる音がした。もうこうなったら、後は開けるしかない。ぼくは、鬼の形相でスプーンを押し上げた。
「ポーン!」
かなたへ飛ぶ王冠。目の前には栓の開いた瓶ビール。勝った、と思った。


あれから瓶ビールを飲むたび、勝った、と思っている。未だに栓抜きを使わずに(買わずに)スプーンで栓を開けているのだ。その度かなたへ飛ぶ王冠の回収率は、ひいきめに見てわずか20パーセントである。どこへ飛んでいるのかわからないのだ。この間は、なぜか風呂場で発見した。