リアル 〜それでも人生は続く〜

深夜に突然、「ピル―」という音が聞こえてきた。何の音かと思い耳をすませてみると、また同じ音が聞こえる。どうやらとても近い所から聞こえてくるようだ。こうなると無性に音の正体が知りたくなった。深い夜には奇妙なやる気が出てくるものである。ぼくは精神を集中し、耳に全神経を傾けた。
その結果、「ピル―」という音は、自分の鼻から鳴っていることが分かった。「体は楽器」とはよく言ったものだ(強く吹いたら鳴らなくなった。儚い楽器である)。

その10分くらい後、遠くから「ゴーン」という音が聞こえてきた。寺が鐘を鳴らしているのだ。深夜だと思っていたら、すでに朝だったのである。カーテンを見たら、やはり光が漏れていた。



その後、ゴミを出した記憶がある。今玄関の方を見てみたが、なんとなく減っているような気がするので、たぶん出したのだろう。だがじっと見ていると、あまり変わってないような気もするし、かえって増えているような気までしてくる。特に、あまり直視したくない気がする。
その後の記憶は曖昧だ。誰かに気絶させられていたか、殺されていた可能性がある。次に記憶があるのは午前9時ごろで、その時は大学にいた。午後3時からあるゼミの準備をする必要があったのだ。準備とは、テキスト中の自分が割り当てられているヶ所を勉強して、それを皆に発表する形にするという、ただ苦しいだけの作業である。つねづね、各自が勉強するだけではいけないのか、と思っている(そうすれば、「勉強した」と言うだけですむ)。
準備をはじめた9時ごろ、この作業は12時には終わる、と思った。11時50分ごろ、12時には終わらないことが判明した。その頃、疲労の限界と空腹の限界にきていたこともあり、作業を続けようか迷ったのだが、結局続けることにした。この時はちょうど眠気の限界とも重なっており、ご飯を食べたら二度と作業は出来ない、と思ったのだ。
この時、起きてから16時間経っている(前日は午後10時に起きた)。早寝早起きと言うが、早く起き過ぎるのも考え物である。
作業は1時半に終わった。だいぶ長くかかってしまったが、これでも妥協に妥協を重ねた結果である。もし妥協しなかったら永遠に終わらないはずだ(もっとも、妥協しなかったことが無いので、確かなことは言えない)。 
ゼミの準備を終えたぼくは、はやる気持ちを抑える必要などどこにも無く、外面構わず学食へ向かった。頭の中は、カツカレーのことでいっぱいである。こういう時、誰かに話しかけられると、とっさに「え?カツカレーが!?」などと返してしまうことがある。この時は誰にも話しかけられなかったので、幸い、人格を疑われずにすんだ。


学食はいい具合に空いていた。カツカレーを食べ、セルフサービスのお茶を飲んでくつろいでいると、もうこれで一日を終わりにしたい、という気分になった。
その後のゼミの発表では、人生を終わりにしたい気分になった。