空手ごっこでの緊張


 山君が空手をはじめた、というのは以前書いた(「度を越したパワーへの欲求」参照)が、先日、どれくらい空手ができるようになっているのかを探ってみた(国が隣国の軍事力を知ろうとするのと同じ動機である)。

 「君のことだから、もう相当強くなったんじゃないか」と恐る恐る聞いたら、「まだ基礎的なことしか教わっていない」という答えが帰ってきたので、ホッとした。そしてその後、ぼくが余裕を取り戻したせいもあったのか、話の流れで少し空手を教えてもらうことになった。

 初めは本当に基礎的なことから教えてもらった。まずは姿勢、そして「突き」と「蹴り」のやり方である。
 ここまでは良かったのだが、急に、「ちょっと構えてみて」と言われた時、何か嫌な予感がした。
 言われたとおり構えると、いきなり、彼に向けている方の膝頭を押さえつけるように蹴られたのだ。
 「痛い!・・・何!?」
 ぼくが抗議の声をあげると、山君は言った。
 「こうされると逃げ場が無いでしょ。膝は逆に曲がらないからね」
 「これも習ったの?」
 「ううん、これは先輩から個人的に教えてもらった。強く蹴ると、膝を破壊できる」

 そういうことは先に言うべきである。もし言ってくれていたら、呼吸を整え、心の準備をし、万全の状態になってから、「やっぱりやめて」と断わることができたはずだ。

 とにかく、そこで空手ごっこは終りにした。もしかしたら膝が破壊されているかもしれない、と思ったのだ。
 奇跡的に膝は無事だった。しかし、そのうち悪くなるかもしれない。三年殺しという話もある。いつか膝が悪くなった時(30年後など)は、山君に責任を追及しようと思う。