安いワイン

以前、勢い余って1.8リットルの紙パックの赤ワインを買ったことがある。格安だった。

だがそのワインには1つだけ欠点があった。まずかったのだ。その欠点のため、ひとくち飲まれた後はずっと手をつけられずに、長い間冷蔵庫に眠っていた(あのワインについては、「安い」ということが唯一の長所だったと言ってもよい)。
それを先日、ちょっとした気まぐれで飲んでみた。もしかしたら欠点が改善されたかもしれない、と思ったのだ。
飲んでみて、「まさか!」と思った。あんなにまずかったワインが、嘘のように美味しくなっていたのだ。「まるで嘘みたいだ!」と思った。「嘘に違いない!」とも思った。じっさい、嘘である。ワインは以前と少しも変わらずまずかった。


「変わらないっていいことだね」というセリフがきれい事だと確信した。そう言った場合、変わらないで欲しいものが変わらないことが「いいこと」なのだ。これは、「自分の思い通りになるっていいことだね」と言っているのと同じである。じっさいぼくも、いくらお金を使っても変化の無いサイフや通帳などがあったら、じつに「いいこと」だと思う(それをわるいことに利用してやろうとも思う)。


さて、ワインである。ぼくはちょっとした思いつきで、オレンジジュースを混ぜてみた。するとどうだろうか。今まで見たことが無い、はっとするような色彩が現れた。目を覆う有様である。何と言ったら良いのだろうか。この世の物では例えられない。強いて例えるなら、紫イモの色にそっくりである。

しかし、ひとくち飲んでみて驚いた。なんと、ワインとオレンジジュースが混じった味がするのだ。これなら飲める。しかも、少しフルーティーなカクテルという感じもする。
この「感じ」が大事である。その感覚だけを頼りに飲むべきである。他のことは考えてはいけない、そう思ったとたん、


「紫イモが現れた!」


パーティーは全滅した。