ホラー

ぼくのアパートは田舎にあるので、深夜はびっくりするくらい静かだ。夜、電気を消して布団に入って、がさごそ、体のすわりのいいところをみつけたら、音がなくなる。耳に全神経を集中して音を拾ってみても、自分の呼吸音以外、何も聞こえない。シーン。まさに静寂。
だが、こんな声が聞こえてくる夜もある。

「あなたにィ!、会えたことォ・・・」
GLAYである。

何の前触れもない。唐突に、まず「あなたにィ!」とかなり大きな声が聞こえ、そのあと一拍おいてから「ことォ・・・」と消え入りそうに聞こえる(実際そこで消える)。隣の住人が歌っているのだと思う。
今は慣れたが、初めて「あなたにィ!」を聞いたときは何事かと思った。誇張ではなく、自分の横で誰かが声を出したかと思った。もともと、ぼくの住んでいるアパートは壁が薄いので、隣人の声がよくきこえるのに、静かな夜に大きな声をだされたもんだから、ものすごくよく声がきこえてしまって、一瞬そう錯覚してしまったのだ。
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深夜の声は別バージョンもある。
「幸せの!、あとさきィ・・・」
同じくGLAYである。
これも大変なことになっている。もう叫ばんばかりに、
「しっあっわっせーの!!」
なのだ・・・。

一曲全部歌われるよりはましだから我慢しよう。というか注意する暇もない。いきなりでかいこえが聞こえて、うわっ!と思ったときにはもう終わっているのだから。
ひょっとしたら寝言かもしれない。