イモール刑事

僕は以前、舞台の脚本を書いたことがある。これだけ言うと、なんとなく凄い人のような感じがする。
・・・。
これ以上語ってもいい事はないのだが、こんなことしかやる事が無いのでやらせてほしい。本当に、人は暇だとろくなことをしないと思う。
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僕が舞台の脚本を書いたのは、「企画委員会」に所属していた時の事だ。小学6年の話である。正直に言おう。それは舞台と言うより、劇だった。お芝居と言った方がいいだろうか。
出だしにして、グッと格が下がッた感じがする。もう「凄い」と思ってくれている人はいないだろうと思って、続ける。(誰か一人でも読んでいるんだろうかというのも心配だ。これはいつもだが。あまり気にしないようにしよう)

企画委員会は何かを企画する委員会ではない。自発的に動いた事はたったの一度も無いと、当時副委員長だったこの僕が宣言する。ではどんな仕事をしていたのかと言うと、文化祭の時に劇をする、その1つだけであった。少なくとも僕はそれしかやった憶えがないし、この委員会に入った動機も、仕事が無くて楽そうだから、といったものだった。必然的に怠け者が集まるようになっていたと思う。本に興味が無いくせに、楽だから図書委員に入るようなものである。同じ事すぎて例えになっていないが。
そういう怠け心理でこの委員会に入ったので、僕はそのたった1回の仕事ですら嫌だった。役をもらえば皆でセリフ合わせをする必要があるし、大道具係になればセットを作らなくてはいけない。それらはすべて放課後にしなくちゃいけない事だ。それは嫌だ。だから僕は脚本を書く事にしたのだ。
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題名は『イモール刑事殺人事件』


ある日、イモール刑事(注※イモ虫)が何者かに殺される。同僚のイモイモ刑事(注※イモ虫)が、その復讐を誓うところからこの話は始まる・・・。

当時使った脚本をそのまま書き写したかったが、今手元に無い(実家にある)ので、思い出しながら書いてみる。


初めの場面:警察署の中。いつものように各自机に座っている。
バタン!(ドアを開ける音)刑事A(イモ虫)が警察署に飛び込んでくる。
刑事A「おい!イモール刑事が殺された!」
イモイモ刑事「な、なんだって!?犯人はだれだ!」
刑事A「わからない。しかし現場にイモール刑事の銃が残っていた」と、現場から持ってきた銃をイモイモ刑事に渡す。
イモイモ刑事「なんてことだ・・・このカタキはかならずとってやる!」(大きな声で)
バタン!(刑事Aが警察署から出て行く音。イモイモ刑事一人になる)
イモイモ刑事「ううう」(泣いている)
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次の場面:容疑者(イモムシ君)に質問をする。
イモイモ刑事「おい!お前がイモール刑事を殺したんだろう!」
イモムシ君「違います。私はその時家で遊んでいました」
イモイモ刑事「そうなのか・・・」
そこで、イモイモ刑事はイモール刑事の形見の銃をみてこう言う。
「おや、この銃には毛がついているぞ。もしかして・・・」
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次の場面:容疑者(毛虫)に質問をする。
イモイモ刑事「おい!お前がイモール刑事を殺したんだろう!」
毛虫「いえ、違います」
イモイモ刑事「嘘をつけ!この銃に毛がついている!これが証拠だ」
ここで毛虫は逃げ出す。
イモイモ刑事「待てーーーーっ!」(毛虫を追いかける)
刑事Aも一緒に追いかけ、2人で毛虫を捕まえる。そして毛虫に手錠をかける。
イモイモ刑事「観念しろ!」バキューン!(毛虫を拳銃で撃つ)
毛虫「参りました・・・」
毛虫は2人に連れて行かれる。
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次の場面:警察署
イモイモ刑事「今日で私は刑事をやめます!」
刑事A「そうか。さようなら」
バタン!(イモイモ刑事外へ出る)
イモイモ刑事「夕日が綺麗だ」(登り棒を指差す。登り棒には夕日の格好をした人が登っている
終り。


どうだろうか。
この脚本には色々と変なところがあるが、まず一番おかしいのは、毛虫に手錠をかけたうえで発砲しているところだろう。僕がこの間違いに気がついたのは、文化祭当日、劇の本番を見ている時だった。イモイモ刑事が発砲する場面を見た瞬間「なにやってるんだ!」と心の中で叫んだ。「毛虫を拳銃で撃って観念させたところで手錠をかけるんだよ!何を読み間違えてるんだ!」とも思った・・・。しかし間違えたのは僕の脚本であって、彼らはそれに忠実だっただけなのだ。それは劇の後、僕がステージから下りてくる演者に迫って行った時に指摘された。彼らはどうやら、僕がミスしたのをわかった上で、わざとやっていたらしい。ああ・・・練習を一回でも見に行っていればこんな恥はかかずにすんだだろうに。ひどく後悔した。
 登場人物がすべて毛虫なのはウケを狙ったわけだが、衣装がしょぼくて全くわけがわからなくなっていた。緑の服を着るだけってアンタ・・・。とにかく僕の理想どおりの劇にはならなかった。楽をしたいから脚本を選んだのに、理想も何も無いかもしれないが、とにかくガッカリである。さっきの恥もかなりのダメージであった。
他におかしなところは、毛虫がイモールを殺した動機が明らかにされていなかったり、銃についてる毛が誰の毛かわからないのに、犯人を特定の毛虫と決め付けちゃってたり、イモイモが理由も言わずにいきなり刑事を辞めちゃってたりと色々あるが、それらは目をつぶってほしい。小学生のする事である。
そういえば、最後の夕日だけはバカウケだった。あれは友達のアイデアだったのだが・・・。
(無駄に長くてすいません。しかも読みにくくてごめんなさい)