(1)「プロジェクトゴッゴル」始動

やってみようオムニバス小説ゴッゴル
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『プロジェクトゴッゴル』(id:dim
技術者たちは謎の物質、ゴッゴルを作るために格闘していた。しかしゴッゴルは物質化するのが難しく、すぐに別の物質に変わってしまう。そこに忍び寄るライバルチームの影。はたしてゴッゴルを確実に作り出すことができるのか? 技術者たちの戦いが始まる。



さて、僕は昨日から政府のお抱え研究者になった。「僕らは」と言ってもいいかもしれない。ここにいる研究者のほとんどが、昨日この研究室へ配属されたからだ。
ゴッゴル研究を手伝ってほしい」
こんな電話をうけたのは昨日の朝だった。そして昨日の夜にはすでにこの研究室に所属した。あれは、ほとんど拉致されたと言っても過言ではないだろう。たしかに、政府から破格の給与を提示された時、「是非おねがいしたい」とは言ったが、まさかその日のうちに迎えが来るとは思わなかった。しかし僕は、迎えの車に乗る事を拒まなかった。今やっている研究に嫌気がさしていたからかもしれない。それはほとんど惰性と言ってもいい研究だった。
僕は車に乗せられていた約2時間もの間、一体「ゴッゴル」とはなんなのかを考えていた。というのは嘘で、給料をもらったら何を買おうか考えていた。不真面目なのではない。たとえ考えたところで「ゴッゴル」がなんなのか分かるはずもないのだ。なにしろ、「ゴッゴル」は僕がうまれてはじめて聞いた言葉だった。
半ば拉致され、車で2時間ほどかかった建物へ連れていかれた後、僕と、僕と同じように連れてこられた研究者達(後から聞いて分かった)と一緒に研究の内容について説明を受けた。
ゴッゴル」とは物質の名称であること。まだ誰も「ゴッゴル」を作った人はいないということ。それでも「ゴッゴル」を作ればそれが「ゴッゴル」だということがわかるということ。
めちゃくちゃだった。それだけで僕(僕ら)に「ゴッゴル」を作れというのか。僕はすぐにこの仕事を断ろうと思った。僕のような凡人には「ゴッゴル」研究は無理に決まっている。と思ったら、僕の他に呼ばれた研究者の中に伊集院君の顔をみつけた。伊集院君は僕の大学の1つ後輩で、ここ1年ほどごぶさただが、たぶん僕と同じ平凡な研究者の1人だ。彼がいるなら大丈夫だろう。少なくともドンケツにはならないはずだ。2人で落ちこぼれるならまだ耐えられる。
そんな事を思っていたら、彼も僕の顔を見つけ、その瞬間安堵の表情をうかべた。まったく失礼な奴だ。僕がいれば落ちこぼれる時は一緒だ、みたいな顔をしている。つまり、さっき僕がした顔である。
説明が終ると、僕らは2人ずつチームを組むように言われた。もちろん僕は伊集院君と組んだ。それにしても何故2人ずつなのか。もっと大勢でやったほうが効率が良さそうなものだが。いや、もしかしたらすでに「ゴッゴル」研究はかなりやりこまれており、その結果2人ペアでの研究が一番効率がいいのかもしれない。
全員がそれぞれペアを見つけると、1ペアに1部屋の研究室が与えられた。それは、なんというか、不思議な部屋だった。つまりは、プールなんである。屋内の50メートルプールだ。プールサイドを走ってはいけない、あのプールだ。
僕は途方にくれた。実は、車で拉致されたときからかなり途方にくれており、伊集院君ともまだ一言も言葉を交わしていなかったが、ここにきて更に途方にくれた。僕は何をしに来たんだっけ?なんでプールなの?「ゴッゴル」のことはすでに頭になく、脳内ではただ、大沢誉志幸の「そして僕は途方に暮れる」ってどんな歌だっけ?という現実逃避的な思考ループを繰り返していた。それはどうやら伊集院君も同じなようで、ぼくらはふらふらとビーチサイドを歩き回ると、定位置につきこう叫んだ。
「バディー」
つづく