ヤマー君。いや、山君。

山君は今期、週に2日しか授業がない。しかし、ほぼ毎日学校に来る。今日も、授業はないはずなのに学校へきていた。一体何をしに来ているかというと、筋肉を鍛えにきているのだ。学校のジムを使って日々鍛錬にいそしんでいる。そして、ただ鍛えているだけではなくて、ホッケーやアームレスリングの試合にも出場している。僕は何度か山君と腕相撲で勝負したことがあるが、一回も勝ったことがない。まともにやっても全然勝負にならないので、絶対に勝つつもりで両腕を使って戦った事もあるが、それでも負けた。これはひどかった(しかし僕が弱いのではなく、山君が強すぎるのだ)。「赤子の手をひねるようなもの」とはこの事だろう。でも赤子の手をひねるなんてことは、山君にはできないはずだから、きっと山君にとって僕に勝つ事など、赤子の手をひねるよりも簡単に違いない。逆に言うと、もし僕が山君に勝つ事があったとしたら、そのときは僕が赤子を人質にとり、山君に脅しをかけたと時しかありえない。なにが「逆」なのかよくわからないが、そのくらい卑劣なことをする覚悟がないと、僕は山君に勝てないということだ。


なので、山君とは絶対に腕力でのケンカはしたくない。幸い今のところ、そういうことになったことはない。2人とも大人だからかもしれないが、山君だけが大人だからケンカになってないという可能性のほうが、かなり高い気がする。山君は僕とケンカをしても絶対に勝つ自信がある故に、絶対にケンカなんかしないのだ。
自信を持って言うが、仮に山君が1分無抵抗だとしても、僕は山君を倒せない。逆に僕の腕が折れている可能性は高い。そしてこれも自信を持って言うが、僕が無抵抗であれば、山君は5秒もあれば僕をあの世へ送る事ができるだろう。もしかしたら抵抗しても無駄かもしれない。きっと8秒くらいに伸びるだけだ。その伸びた3秒が、僕という人間の力だ。どうだ、僕は全力を出せば3秒も命を延ばせる人間なのだ―――――――。
何が言いたいかというと、なによりも大事なのは山君を怒らせないことだ。少しくらい鍛えたところで8秒が12秒に伸びるくらいにしかならないということが、悲しいくらいに自明・・・。ちなみに山君が本気で怒ったことはない。だからこんなのんきな事を思っていられるのかもしれない。END