小指事件続き

病院に着いた。「救急用入り口(?)」で救急車から降りて、歩いて救急のとこ(よくわからないとこへ)入った。そこで縫合をしてもらう。縫ってくっつけてもらうのだ。怖かったが、お金の事もちらついた。高いのかもしれない。しかも、「くっつくかはわかりませんが」と2度ほど念を押されて、麻酔を打たれた。高い金をとるのに(まだ決まってない)、くっつかないならやってほしくは無かったが、医療のことであり、僕にはそれを判断する材料が無いので、お医者様の思い通りにさせた方がいいと思って黙っておいた。左手小指の付け根の両側に1本ずつ、合計2本も注射を打たれ、どういうことなのかわからないが針をぐりぐりうごかされたのでとても痛かった。しかしぐりぐりが良かったのか、すぐに麻酔が効いてきて、左の手小指より上の感覚がなくなった。先生に触られても、何も感じない。そして縫われた。
びっくりするくらい痛みを感じないので少し大胆になり、どういう感じで縫われているのかをしっかり見ておこうという気分になった。首の稼動域の事情でよく見えなかったのだが、少しだけみえたそれはあんまりにも細かい作業で、縫ってもらうのを申し訳なく思うくらいだった。「そんなくらいならガーゼでもかぶせておけば大丈夫なんじゃない?」と、何度言おうと思ったかわからない。だがしかし、その縫合はどちらにせよ(くっつくか、くっつかないかにせよ)必要なものであったのだ。先生曰く、「神経が飛び出さないようにフタをする意味もある」らしい。まさか嘘ではないだろう。というかもう先生の言う事は信じるしかない。どうにでもしてくれ(というほど大げさなものではないのだが)。
縫い終わり、ガーゼと包帯を巻いて、治療は終了。控え室でお待ちください、と言われる。楽しい。救急車に乗って、指を縫合されて、深夜の待合室である。そして看護婦さんに呼ばれ、鎮痛剤と抗生物質をもらい、次の診察の日を決められた。
「明日またきてください」
明日また診察にきてくださいと言われたのである。急に楽しくなくなった。急に指と、そして頭も痛くなった。明日は9時から授業があるし、市民病院はとても遠い。半日潰れる事必至である。面倒な事になったと思った。実際面倒だ。どうにかなりませんか?と聞いてみたが、明日ガーゼを替えたり怪我の具合をみたりするのは絶対に必要な事だし、あと他にも何か言われたが、結局はどうにもならなかった。今日の支払いは、会計が閉まってしまって(ギャグではない)いるので、後日でいいとのこと。
僕は失意のまま裏口から病院の外へ出た。後は自分の力で家に帰らなくてはいけない。なんてこった、僕は携帯電話しか持っていない。財布を忘れたのだ。十数分、病院の入り口と門を行ったり来たりして、そのたびにすれちがうお医者さん風の人に怪訝な目をむけらた。それに耐えられなくなった頃、山君に電話した。すぐに迎えにきてくれると言う。泣きそうなくらいありがたい。今思えば家にお金はあるので、タクシーを呼んでアパートに帰ることもできたのだが、なぜかその時は思いつかなかった。気が動転していたのかもしれない。それか、単にお金がもったいないので、その選択肢は思いついた瞬間除外されていたのかもしれない。
山君は約20分後、僕が指定したコンビニに、いつもの10万円で購入した軽自動車に乗って来てくれた。そして提案をしてくれた。
「明日また朝から病院に行くんだったら、ウチに泊まれば?僕学校に行く途中に病院に降ろしていくから」
大学と山君のちょうど間に、病院があるのだ。本当にありがたい提案だったので、即うなずいた。そしてお腹がすいていないかという気づかいもしてくれたので、思い出したように腹が急激に減ってきて、山君からお金を借りてほか弁とお茶を買った。一応借りるという体裁をとったのだが、弁当も、お茶も、山君はおごると言ってくれていた。お金が無いんだから仕方ないじゃん、と言って。山君の車で山君の家へ向う。山君の家には、はじめて行くことになる。それにしても、どんな事情があったとしても、夜のドライブは楽しい。僕は助手席が好きだ。
山君の家は団地の一軒家だった。まだ10時くらいだったが、両親はもう寝ているらしい。犬が二匹いる。おとなしくて可愛い。僕が近寄ってもほえない。やはりペットは飼い主に似るのかもしれない。
山君の部屋に案内された。何も無い部屋だ。なにしろ、テレビがない。これだけで十分、何も無いと言える。僕は小学校の頃買ったと思われる山君の勉強机を借りて弁当を食った。僕は山君の部屋着を借りてパジャマにした。寝る時は、僕はベッドを借りて、山君は床に布団を敷いて寝た。朝6時半に起床して、朝ご飯を茶の間で食べた。魚や煮物や納豆など色々なおかずがあって、ご飯は山もりだった。すべて山君のお母さんが用意してくれた。いとこの家へ泊まりに行ったことを思い出した。
続く