研究室にて

「僕のパソコン壊れちゃいました・・・」
斎藤君のいるほうから、斎藤君の悲痛な声が聞こえる。モニタとその上に乗っている紙なんかで全く向こう側が見えないので、その顔は見えない。
「壊れたって、どうなったの?起動しないの?」
「ええ、起動は、しないですね。これってCPUが焼けたとかなんかなんですかね?」
「僕全然PCのことわからないんだけど」
「僕もわかりません」
「とにかくここが暑すぎるのが、なんか原因っぽいよね」
「なんかそれが原因っぽいですね」
二人とも何もわからないので、何も調べようとはしなかった。僕は結局斎藤君のPCをみることもしなかった。とりあえず僕だけ作業を続けるのもなんだかばからしいので、今日はこれでおしまいにして、横のテーブルを少し片付けて、といってもあるものを今まで作業をしていたばしょにうつして、そこでコーヒーを飲んだ。二人ともホットコーヒーである。斎藤君もホット派でほんとうによかった。ほっとした。これは以前実際に口に出したことがあるのだが、斎藤君があまりにノーリアクションだったので、それ以来二度と使っていないジョークだ。わりと、いいとおもったのだが。
「斎藤君、一応それ、なんだっけ、どこかに言って修理とかしてもらうんだよね」
「修理とかというか、修理をしてもらうと思うんですけど」
「ミドリ君みたいなこと言わないでよ。君としゃべる時だけは唯一気使わなくていいのに・・・」
「あはは、真似してみました。とりあえずどこかに電話するんですけど、わかりません」
「じゃあ帰りに事務に言っておけば?」
「でも、今日は誰もいませんでしたよ」
「誰もいないってことはないだろう。誰かいるんじゃない?」
「まぁ、誰かはいるんだとおもいますけど」
こんな会話が僕が斎藤君に求めているものだ。斎藤君も、それをわかってやってくれているような気もするけど、楽しいのでやめられない。やめる必要もない。
「じゃあもう今日は帰ろうか?美味しいラーメン屋行く?」
「いいですねぇ、全然行きます」
「よし!全然行こう!」
ミドリ君がいなくて良かった。