嘘ばっかりついていやがるな。

「こんなめんどくさいことやれるか!」
と宿題をやり始める前に言ったのだが、それは嘘になった。それを言った一時間後の僕は、宿題をやりとげていたからだ。僕はそのとき、やる気になればできないものなんてほとんどない、と思ったし、こんな簡単なことでいちいちめんどくさいと言ってしまう自分がアホにも思えた。でもやる前は本当にめんどくさいと思ったのだ。そして今は、「めんどくさい」を変換すると「面独裁」になって、それをいちいち直すのがめんどくさいということに直面している。パソコンはバカだ。それを知っていて毎回変換してしまう僕はさらにバカだろう。
パソコン実習室で宿題を終えたのは締め切りぎりぎりの5時50分だった。6時が締め切りなので、すぐにメールで提出した。推敲などする暇も無かったが、はじめは提出できるとすら思っていなかった僕が、そんなことを気にするわけが無かった。となりで頑張っていた山君も、僕と同じころに終えたようだ。やっと帰れる、と思い、僕は、一つか二つ伸びをした。その時隣の隣の佐藤君に電話がかかってきた。(佐藤君は、特に仲良くも無く、話も全然しないが、山君と知り合いなのでたまにいっしょに行動する人である)
「今日の飲み会の場所どこー?うんうんあー俺一回帰りたいなぁ。七時からだよねぇ・・・ギリギリだなぁ。でも疲れてるから帰りたいなぁ。どうかなぁギリギリだわ。でも急ぐからなんとかなるかなぁ・・・」などと延々はなしている。佐藤君はよく、自分の選択の思考を、脳から口へノーフィルターで通している。僕は、そういうことをする人が、他人に意見を求めているのではないのだと、つい最近に気付いた。
帰ろう、ということで、三人席を立った。佐藤君は電話しっぱなしだ。まだ同じことを喋っている。実習室を出る時、佐藤君の座っていた席に、車のカギのようなものがあるような気がした。車のカギじゃないかもしれないし、だれか他の人が忘れたものかもしれないし、実習室にはわすれものがいつもおいてあるし、もし車のカギだったら忘れるわけ無いだろうと思ったので、佐藤君には声をかけなかった。それに、彼は電話中だしね。
三人、一回までおりて、外へでるころになって、ようやく佐藤君の電話が終わった。そして佐藤君はぽっけをさわって、「アレ!カギが無い!車のカギねーや!やべー・・・ちょっといってくるわー」といって走っていった。実習室は三階だ。僕は体が軽くなった、気がした。なんだ、僕は佐藤君の事が嫌いなのか。
佐藤君を待たずに、僕と山君は外へ出た。雨が少し降っていたから、車で家まで送ってもらうことになった。さっきまで憂鬱だったが、今は気分がいい。誰かがいないからだろうな。
あ、カギを取りにいった佐藤君を待たなかった山君も、佐藤君が嫌いなんだろうか。たぶんそうだ。いや、彼にそんなはっきりとした自己分析の線が引けるだろうか。たぶん、引かないだろう。今日はこれで終りである。