あずみ

あずみはいい女だ。映画にもなったから知っている人も多いだろう。『おれは直角』や『愛がゆく』の著者である小山ゆうの漫画である。現在45巻まででている。
あずみは行く先々で人に出会う。ある人とは親しくなり、相手が辛いことを背負っていると知ったとき、あずみは心から同調する。「辛かったろうね・・・悔しかったろうねぇ!」と言って抱きしめる。
一歩引いたところから、理解はできる、という程度に同情するのではない。その時あずみは、全くその人になってしまう。それは、あずみの素直さからくるのだろう。心に壁を作らないから、そんな芸当ができるのだ。
多くの人は、私は相手にどのくらい受け入れられているのだろう、とある種の警戒心を抱きながら、目の前にいる人間と対峙する。
だが、あずみは自分を見ていない。自分が傷つくんじゃないか、とか、変に思われるんじゃないか、とか、そういうことに関心が無い。
ぼくはそういう人に惹かれる。よく、何かに夢中になっている人が好き、と言う人がいるが、同じ理屈なんだろう。
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あずみは物心ついた時から刺客になるべく育てられた。だから、旅先で知り合った人と親しくなっても、その人と一緒に普通の生活を送ることはできない。
映画版の『あずみ』で、一緒に平和に暮らそう、と誘われた上戸綾は、こう言って断わった。
「見てきたものが違いすぎる」
人を殺したり、また、殺される恐れのない生活の方が、刺客としての人生より「幸せ」であることはあずみも理解しているだろう。しかしそれ以上に、たくさんの人を殺して、また、たくさんの親しい人を殺されて、もう戻れないところまで来てしまっていることがわかるのだ。平たく言ってしまえば、刺客であるということが、あずみのアイデンティティなのだ。
あずみは自分を裏切れない。そこだけは、素直ではない。