無目的

「あんな奴と何話してるんだい。あんなイカサマ野郎。こないだあいつ、万引きまでしたんだぜ。俺はあいつを店にいれないことにしてるんだから」
「ええまあ」ぼくは苦笑した。「あることないこと言ってますからね」
でも、ぼくは終電を逃したのだ。
「適当にしときなよ」
そう言って、店主はおつりをよこす。
ぼくは再び、イカサマ野郎の元へ。
「男の方はさしづめ、消防士」
カップルが通り過ぎてから、イカサマ野郎は呟いた。そしてぼくの方に向き直る。
「お前さん、いいかげんにして、それ食べたら帰りなよ」
「ああ、うん。そうだね」
―――

ぼくはいつもだらだらしてしまう。ほどほどというものがない。潮時なんて、何度も通り越す。イカサマ野郎にも鬱陶しがられるくらいだ。 さっき行ったバーでもそうだったのかもしれないと疑ってみたが、疑いだすときりが無い、ということにはならなくて、もう、どうでも良い。
横になってみたがコンクリートが硬すぎて眠気は訪れない。でももう、時間も自分も持て余さない。ただあの人のことを思い出して、実行されることの無いシミュレーションを、何回も重ねる。

本当に言いたいことが、一番言えない。いつも冗談ばかりで、自分が嫌になる。楽しくなくても、素直に、率直になったら、それで良いのに。どうしてそんな簡単な事ができない?
たいてい、頭が空っぽになって、馬鹿みたいにあの人を見つめているだけだ。そして、お別れの時間が近づいてくると、目をそらして、別の事を考え始める。
これからどうなるかなんて、考えたくも無い。良くても悪くても、それは同じだ。いや、きっと、結局は悪くなる。そう思っているから、先の事なんか考えたくもないのだろう。