なで肩の女

あれは夢だったのか。いやしかし、このショルダバッグが何よりの証拠だ。私がこんなものを持っているはずは無い。頭が大きい奴が帽子を被らないのと同じで、私はショルダバッグを使わない。なで肩の私にとって、あんなに使いにくいものは無い。かけなおしてもかけなおしても、ずる、ずる、と落ちてくる。最初はかかるが、動いたらもうだめだ。肩など無ければ、かけないのに。何度そう思った事か。
かかったと思ったバッグが、ずる、と落ちてくるときの気持ちといったらない。怒りと悲みが混じったやりきれなさだ。あんな思いは、二度と御免だ。
胸の前で帯が交差するリュックサックが私の唯一の肩掛けバッグ―――。
一度、赤ちゃんをおぶってるみたいだね、と言われたことがある。その男を殺すのに5秒とかからなかった。

そう、私はなで肩の女だ。このショルダバッグが何よりの証拠だ。夢に違いない。夢なら、今一度、試して見る価値はある。
・・・・・・かかった。
しかし、これからが本番だ。動いてみるまではわからない。
「おい」
男の声がした。振り向いた拍子に、ショルダーバッグは私の肩から落下した。
「肩を貸してくれないか」
私はどうにか持ちこたえ、男に肩を貸してやった。
「ありがとう」
「どういたしまして」