黒猫

コンビニの駐車場の隅っこに小猫がいた。真っ黒な小猫だ。その小猫が、ぼくがコンビニに入るのと入れ違いで出てきたカップルに切なげに何かを訴えかけているのを見た。男性のほうが少し反応したが、女性に急かされてすぐに車に乗り込んでいた。


絶対に逆らえない命令が下りてくる。ぼくは余計な買物をして、コンビニから出た。チーズかまぼこである。
コンビニから出ると、すぐに小猫が駆け寄ってきた。
にゃあにゃあにゃあにゃあにゃあにゃあにゃあにゃあにゃあにゃあにゃあにゃあ。
立ち止まってビニール袋を開くと更に声をあげるので、急いでチーズかまぼこの封を切って、自分の口でかみ切ったものをできるだけつまらなそうに、「ぺっ」と小猫の前に吐き出してやった。二回吐き出した。小猫は犬のような勢いでそれを食べた。ぼくは残りを齧りながら、アパートへ戻った。
駐車場で小猫を見てから、このあいだ横断歩道の手前で死んでいた猫のことが浮かんで頭から離れなかった。今したことは、その時何も出来なかったことへの罪滅ぼしなんだと思った。
偽善という言葉が浮かんだ。関係なかった。