日記

ああ、そうだったね。本当の君はこんな姿だったんだ。とても綺麗だ。まぶしいくらいに輝いている。さっきまではあんなに真っ黒だったのに。
いや、謝らなくてはならないのは、僕は真っ黒な君をほとんどみていないんだ。僕は君との間にたくさんの壁を作っていた。でも今日は決心して、その壁をすべて取り除いて、真っ黒な君を見た。びっくりしたよ。まさかあんなにも真っ黒だとは思わなかった。それに、色々なものが浮いていたね。あれじゃあ何もノドを通らないわけだ。水を飲ませても、飲み下すのに一晩はかかったよね。それがどうだい、今は蛇口を全開にしても問題なしさ。ああなんてすばらしいんだ。普通の流し台は。
今まで黙っていたが、僕の家の流し台はすごいことになっていたのだ。さっきまで、家中の皿という皿、コップというコップ、スプーンとうスプーンがすべて収まっていた。「パズルかよ!」とつっこみたくなるくらいに。1回ごとに洗うのがめんどくさいという理由で、一人暮らしにふさわしくない数の食器を所有していたのもいけなかったのかもしれない。流し台の底は見えず、しかし、変な臭いがしていた。水を流してもすぐに水位が上昇してしまうし、一度たまった水がなくなるのには一晩かかった。僕はもう、それを見ないことにしていた。
しかし、近頃虫がわくようになったのだ。ギャー!というわけで、一大決心して大掃除をしたのである。皿を全部洗い、流し台も洗った。水流れるところにはまっている網も、古い歯ブラシを使って洗った。きっとこの様子を5歳はなれた僕の弟が見ていたらこう言うだろう。
「それで歯磨いたら100万円くれるって言われたらどうする?」
と。
弟は悪くないのだ。僕の真似をしているだけである。昔の僕が悪い。そして僕はいつもこう答える。
「100万くらいじゃ嫌だな」
実際に目の前に100万円を積まれたらわからないが。というか積むほどのものでもないか、100万円。むろん実際に見た事は無い。
そしたら次に弟はどう言うか。「じゃあ1億円だったら?」と思うだろうか。違う。いつもこう言う。
「じゃあマシンガン持った人たちにかこまれて、「これで歯を磨かないと殺す!」って言われたらどうする!?」
これも僕の真似をしているだけである。弟を責めないでやってほしい。それにしても、「どうする!?」て言われても・・・。僕は、「だったら磨くよー」と言うしかない。しかし嘆いているわけではない。割と楽しんでいるのだ。弟も本気で言っているわけではないだろう。彼はもう16である。END