(3)「寺山修司が邪魔になる」

―――(オムニバス小説ゴッゴルシリーズ)―――
寺山修司がうるさいのである。僕らが「ゴッゴル」作りに失敗するたびに、さきほど伊集院君によって出された寺山修司がこう言うのだ。
「振り向くな、振り向くな、後ろには夢がない」
どうも、僕らの発する「後悔」の念派のようなものがスイッチになっているようなのだ。いや、そんなことは僕らにはわからない。
よく分からないが、うるさい。「うるさい」というのは騒音になっているわけではなくて、そんなデシベルの問題ではなくて、わかっている事をいちいち言われるのが頭にくるのである。なんでこんな奴を出したんだ伊集院君は。いや、寺山修司の悪口を言っているのではない。伊集院君のイメージする寺山修司像が悪い。伊集院君の頭の中にある寺山修司は、伊集院君がなにか「後悔」するたびにこの詩を言っていたのだろう。だから当然、うるさがっているのは僕だけである。それがまた頭にくる。怒髪天につく。そう思ったら本当に怒髪が天についてしまうから困る。ここはそういう場所なのだ。つまり、イメージが現実になってしまうのだ。と、途中で読んだ人にもわかるように、この話の設定を小ばさみしてみる。いや、これはこっちの話だ。
「うるさいうるさい」
僕は文句を言った。そんな僕を無視して、隣では伊集院君がゴッゴル作りに勤しんでいる。あ、失敗した。つまり、「ゴッゴル」以外の物が現れた。僕らが「ゴッゴル」を発生させれば、それはまぎれもなく「ゴッゴル」だとわかるはずなのだ。まだ誰も「ゴッゴル」を見たことがないのにもかかわらず、である。むちゃくちゃだが、そういうことにした・・・のではなくて、そういうことになっているのだ。
「うるさいうるさい言うから、うるさいばあさんが出ちゃったじゃないですか!」
と、伊集院君も文句をたれた。それにしても「うるさいばあさん」を出すなんて、伊集院君もやってくれる。あの婆さんは本当にうるさい。ご想像の通り、「うるさいばあさん」はあだ名である。本名だったら怖い。そしてこれもわかるかとおもうが、うるさいので「うるさいばあさん」である。僕らが名づけた。笑ってくれてもいい。
ああ、うるさい。どううるさいかはこの際割愛するが、とにかくうるさいと思ってもらえればいい。
なんだかなぁ。ゴッゴル製作、ちっともすすまないじゃないか。僕はちょっとやる気を無くしはじめている。この部屋の仕組みはだいぶわかったし、研究はまだ1日目だが、とっかかりがなさ過ぎるのだ。僕はとりあえずタバコを出して一服することにした。「さあ、タバコが現れるぞー」と毎回超能力者気分である。さすがに慣れてしまったが、それでもたまにこんな事を言ってみるのだ。カラ元気というやつかもしれない。それとも一種の躁状態か。
僕が一服している間も、伊集院君はゴッゴル製作に勤しんでいる。あんまりがんばるなと言いたい。給料はいいのだから気長にやろうじゃないか。第一、君ががんばると邪魔者が増える。
「なんだかなぁ・・・」
僕は思わず口にしていた。
「ちょっと・・・また変なこと言うから失敗しちゃったじゃないですか・・・」
また勝手に人のせいにしてくれる。僕は伊集院君のこういうところが嫌いである。しかし、今回ばかりは僕のせいだった。伊集院君の発生させた物体、というか人物は、しかめっつらでこう言った。
「なんだかなぁ」
阿藤快である。また邪魔者が一人増えた。この先大丈夫だろうか、色々と。
つづく