日記

今日は3つも犯罪を見た。
1つ目は、携帯のカメラで雑誌等の情報を盗む、いわゆるデジタル万引きである。中学生くらいの女の子が、書店の雑誌コーナーの1番端っこで、地域情報雑誌を片手に持ち、もう一方の手で携帯を持って、写真をとっていた。バシャッっと電子的な音がしたので、間違いないだろう。彼女は携帯の画面を確認してから、雑誌を丁寧に棚に戻すと、店を出た。
2つ目は、自転車泥棒である。先ほどのデジタル万引き少女が書店を出ると、実に自然な動作で、鍵のかかっていない僕の自転車にまたがったのである。僕があわてて店をとびだしたとき、少女と僕の距離は、旗信号で会話しなくちゃいけないくらい離れていた。
3つ目は、傷害事件である。結果から言うと、僕がデジタル万引きと自転車泥棒をした少女に怪我をさせたのだ。僕は全力で彼女を追いかけた。走りながらも、まともに走っておいつくのは、どだい無理であるとわかっていた。
彼女は、走っている僕の先100メートルくらい先の曲がり角を左に曲がった。それを見て僕もその場で左に曲がり、残ってる力全てを振り絞ってまっすぐに走った。もしかしたら、追いつけるかもしれないと思ったのだ。彼女が曲がった道は、左に湾曲しており、方向的に、こちらへ戻る形になる。僕が今走っているまっすぐな道と、交差しているのだ。すぐに、見通しの悪い交差点があった。彼女があのまま道なりに走っていれば、右から来るに違いない。右から自転車が来ることをイメージして、僕は、交差点へ飛び出していた。視野の右端に自転車をとらえた。3メートルも離れていなかっただろう。自転車のスピードがスピードなので、僕は全く反応できなかった。彼女の方が大きく左に避けて、テレビのクラッシュ映像みたいに電信柱に衝突した。大きな音がしたはずだが、僕が覚えているのは、ひっくり返った自転車の車輪が回る、カラカラという音だけである。彼女はお腹をかかえて丸まったまま、しばらく動かなかった。
どのくらいそうしていただろうか、10分くらいに思えたが、実際には3分くらいだろう。やがて彼女は起き上がった。そして僕にむかって「あぶないでしょ!」と叫んだ。汚い声だった。それがその時の感想である。そしてすぐに手が出ていた。右手に意外なほどの衝撃があり、彼女は派手にひっくりかえっていた。そして大きな声をあげて泣いた。僕はもう壊れてしまったかもしれない自転車をおこして、それに乗って家に帰った。僕は、右手に痛みが残っている間だけ、自分がしたことに動揺していた。
今になって、もしかしたら僕が殴ったあの少女は、僕の自転車を盗んだ少女じゃなかったのではないだろうか、と思いはじめている。よくよく思い出してみると、少し背格好が違うかもしれない。書店で見た少女は、もう少し小さかったのではないか?それに、方向的に戻ることになる道を、そのまま進むというのも、不思議である。戻るなり、細くてもわき道へ行くなどするのが自然だろう。もしかしたら、僕は全く関係のない少女の交通を妨害し、その上暴行を加えたことになる。あ、自転車泥棒までしていることになる。
いま、この推理を確かめる方法を1つ思いついた。それは、とても簡単な方法である。アパートの駐輪場へ行き、自転車を確認すればよい。本当に僕の自転車であるかどうかを。でも、おそろしくて、そんな事出来ない。明日から歩いて学校に行くことにした。そして、もう二度とあの駐輪場へは行かないことにした。絶対である。














いやしかし、全部嘘なので、そんなに怖がる必要もない。